私の性格がねじ曲がっていく
それがどんなに甘い考えだったか、すぐに思い知ったんだけどね。まだ自分で体を起こせなかった頃は、夜中の1時から5時まで3~4回は「トイレ~」と、寝ている私を起こした。
声がかかれば即刻布団から飛び起きて、電動ベッドを動かして、母ちゃんのおむつをはずし、体を起こして、わきの下に手を入れて立たせる。「あぶね~べよ」と足を突っ張っている母ちゃんをベッドの横のポータブルトイレに座らせるのは簡単じゃない。夜はオシッコしか出ないからおむつに用を足してくれればいいのに、それがイヤだと言って私をコキ使うわけ。
母ちゃんを横にして寝かせた後、体をベッドから引き上げるのは、体重40㎏とはいえ重労働よ。わきの下から手を入れて、腰を落としてグッと力を入れて持ち上げると「よいしょ!」と声がする。なんと、体を動かしてもらっている母ちゃんが私にかけ声をかけてたんだわ。ひゃはは。相変わらずおかしなばあさまだよと笑っていられたのも最初のうちだけ。とにかく1時間半ごとに起こされるから寝られやしない。
そうこうしているうちに朝になると、「ヒロコ、腹減ったよ」「ちめてえ水、あっか?」──。だけど、私がいまでも思い出したくないのはその後なの。大腸に持病を抱え、排便を促す薬を常用していた母ちゃんは、朝食の前後、大便ラッシュだったのよ。
車椅子に座ってテレビを見ながら、フォーク片手に食事している母ちゃんの顔色を、私は常に緊張して見守った。ちょっとでも変化があると、立ち上がって車椅子をトイレに移動させ、下半身をむき出しにすると案の定よ。
で、その始末をした後、「ヒロコも一緒にご飯食っちめぇな」と、こともなげに言う。「シモの世話をした直後に飯なんか食えるかよ」と喉まで出かかったけど、それはどうにかのみ込んだ。
でも、その回数が増えると、私の性格がねじ曲がっていくんだわ。で、あるとき、私はポータブルトイレのバケツを運ぶとき、その中身が見えるよう、ポチャポチャと音を立てながら、食事中の母ちゃんの前をわざと横切ったの。
どうだ、参ったか! と顔を見たけど、淡々とフォークを動かしているだけ。てか、参ったのは私の方で、その光景が脳裏に焼きついている間は食事ができなかった。