中国がロシアを経済面・金融面でサポート
しかし、3月18日に行われた米中首脳間による電話会談の内容や、外交部記者会見の内容をみる限り、たとえ欧米に制裁を受けたとしても中国は、隠然とロシアとこれまで通りの取引を続ける可能性が極めて高いとみられる。中国が経済面・金融面で最低限のサポートをする限り、ロシア経済が短期間で崩壊することはないかもしれない。
長期にわたってロシアを制裁し続けなければならないとすれば、原油の需給逼迫は今後、さらに高まりかねない。増産を急ぐ必要があるが、サウジアラビアに限らず中東全体が経済的な結びつきの強さからすでに親中に傾いており、中国に同調しかねない。はたして欧米の要求を受け入れ、増産ペースを速めてくれるだろうか。
それ以前の問題として、不足する原油・天然ガスを補うだけの生産余力はあるのだろうか。データを補足しておくと、天然ガス輸出額については世界最大の輸出国はロシアで、2020年には330億ドルを輸出している。
この点についてGlobal Trade Trackerのデータで確認しておくと、2021年におけるロシアの石油・天然ガス生産量は1010万バレル/日で、この内47%に当たる470万バレル/日をロシアは輸出に回している。この内、オランダ、ドイツが110万バレル/日を輸入しており、米国も19万9000バレル/日を輸入している。もし、この大部分について、制裁のため欧米各国が輸入できないとなれば、同程度の量を米国を含め産油国が増産して埋め合わせなければならない。しかし、各国は新型コロナ禍の影響を受けて設備投資を控えたこともあり、見合う増産余力はない。
OPECプラスは3月も40万バレル/日の増産を続ける計画だが、政情が不安定な国が多く、それすら実現するかどうか不透明な状況だ。
エネルギー、食糧、一次産品などの供給面で欧米諸国には大きな弱点がある。今回の件ではそれが改めて再確認された。非欧米諸国を自在に制裁できるほど、欧米諸国の勢力は強くない。そもそも、グローバルな自由貿易体制が確立されている現在、その破壊はすべての国にとって不利である。
ロイター/イプソスが3月21~22日に実施した最新の世論調査によれば、バイデン大統領の支持率は40%で就任後最低を更新した。回答者が最も高い関心事としたのは経済であり、戦争や海外との紛争はその次であった。このままでは11月に行われる中間選挙でバイデン民主党は敗北しかねない。
米国は制裁以外にもやり方があるのではないだろうか。原油価格の急騰、物価上昇を止められるのは、米国市民だけなのかもしれない。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も発信中。