3月7日の東京マラソンでは、エリウド・キプチョゲ選手(ケニア)が圧巻の走りを見せ、2時間2分40秒の大会新記録で優勝。3月13日の名古屋ウィメンズマラソンでは、ルース・チェプンゲティッチ選手(ケニア)とロナチェムタイ・サルピーター選手(イスラエル)がそれぞれ大会新記録を樹立。マラソン界で高速レースが相次ぐようになっているが、その要因のひとつがシューズの技術革新だろう。市民ランナー界隈でも、高機能シューズに熱視線が送られている。
ここ最近はカーボン(炭素繊維)プレート挟み込みや船底形状の厚いソール(底部分)など、さまざまなテクノロジー搭載型のシューズも増えている。その一方で、市民ランナーたちにとってシューズは“消耗品”だけに、おいそれと手が出せないのも実情だ。
ある市民ランナーが、最近の懐事情を打ち明ける。
「カーボン厚底シューズを入手したところ、スピードも出て本当に楽しい。ただ、これまでのシューズのように走り込んで年1で買い変えると、手痛い出費になるんです。しかも長持ちするわけでもないので、大事に大事に履いています」
各社の厚底シューズの構造を見ると、地面に触れる下層(アウトソール)には硬質のゴムを、3~4cmの厚さを実現する上部(ミッドソール)に軽量素材が用いられている。そしてその間にはカーボンプレートが使用される。そして走りやすさのための軽量化は至上命題。重量の大半をソールが占めるため、各社アウトソールは薄く小さくし、ミッドソールは軽さと厚さを実現する素材を用いるなど、工夫を重ねている。
たとえばミズノは2020年7月に、シューズ用高反発ソール素材「ミズノエナジー」を開発。水野明人社長はこの素材を使ったシューズについて「新型コロナウイルスの影響もあるが、全世界で100万足以上は販売したい」と語るなど、ランシュー市場拡大への期待は大きい。
その一方で前出の市民ランナーは、厚底シューズならではの苦労を口にする。
「正直、アウトソールがアスファルトで削れたら“スポンジ(ミッドソール)”が接地するからもうダメ。みるみる摩耗し“薄底”になっちゃいます。それでいて発売から2年経ったのにネット販売中心でセールでも2万円を切らないモデルや、売っている店が限られているモデルもある。プロの選手すら最上位モデルではなくひとつ下位のモデルを履いていたり、練習で安価なモデルを履くのを見たりすると、やはり厚底シューズはおいそれと手が出しにくいものだと実感しますね」