徳島県警を退職後は犯罪コメンテーターとして活躍する「リーゼント刑事」こと秋山博康氏の連載「刑事バカ一代」の特別編。秋山氏の新刊『リーゼント刑事』発売に合わせて、“サスペンスドラマの帝王”の異名を取り、数多の作品で刑事役を演じてきた俳優・船越英一郎氏との異色対談が実現した──。【全3回の第1回】
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秋山:船越さんとは初対面ですが、あまりにリーゼントがキレイで見惚れてしまいました(笑)。
船越:いやいや、ありがとうございます。ネタばらしすると、僕は刑事の役柄を秋山さんに“寄せた”ことがあるんです。2019年放送のフジテレビの月9ドラマ『トレース~科捜研の男~』で演じた虎丸刑事は、『警察24時』で拝見したリーゼント刑事を参考に役作りしました。「あんな強面の刑事はいない」「物言いがパワハラだ」とネットで叩かれましたが、秋山さんのせいです(笑)。
秋山:いや~。確かに昔は熱血漢の刑事が多かったんですよ。ワシも警部補までは熱意のあまり机をバンバン叩いて怒鳴っていましたが、現場の指揮官になり、厳しいだけではアカンと反省して大人しくなりました。
船越:役者の世界も同じですよ。今の若い俳優さんは、先輩の収録が残っていても自分の出番が終わると帰ってしまう。昔は先輩の撮影が終わるのを待ち、お酒の席での金言を聞き漏らすまいと必死になったものです。秋山さんとは同い年ですが、僕らの世代には当たり前だった「見て盗む」がなくなりました。叱責するとパワハラと言われる(笑)。厳しい時代になりましたね。
秋山:船越さんは若手の頃から刑事役が多い印象ですが、刑事を演じるのは大変やなかったですか。
船越:刑事役をやる上で欠かせないのは、自分の中にリアリティを育むことです。だから僕は必ず現職の警察官やOBの体験談を聞いて、自分のよすがにしました。近年、多くの先輩が演じた(西村京太郎氏原作の)十津川警部役を仰せつかりましたが、膨大にある原作から自分なりにエッセンスを読み取って役作りに取り入れています。
秋山:撮影中にアクシデントはありましたか。
船越:昔は犯人と格闘するシーンが多くて転倒や怪我は日常茶飯事でした。大昔ですが、犯人役の菅原文太さんを追いかけるシーンで転倒し「バキッ」と骨が折れた音がしたけど、何事もなかったように起き上がってまた走りました。大先輩の文太さんが相手役でなければ、すぐ病院に駆け込んだでしょうね(笑)。昔の刑事ドラマはやたらと走るシーンばかりで、撮影中に靴があっという間にボロボロになりました。