徳島県警を退職後は犯罪コメンテーターとして活躍する「リーゼント刑事」こと秋山博康氏の連載「刑事バカ一代」。現役時代の秋山氏が追い続けた「徳島・淡路父子放火殺人事件」について振り返る。
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おはようさん、リーゼント刑事こと秋山博康です。
ワシの刑事人生で最大のヤマ場となった2001年の「徳島・淡路父子放火殺人事件」。父子を惨殺した容疑者の小池俊一(当時40)をマークしながら、すんでのところで取り逃したワシは、テレビの警察特番で事件を世にアピールした。
当時、話題を呼んだ《おい、小池!》の手配ポスターを作成して情報提供を呼び掛けると、全国から目撃情報が寄せられた。中でも多かったのが、小池の故郷・北海道からの情報で、ワシと捜査員は札幌市内のサウナに泊まり込んで捜査を続けた。宿泊代をケチったのではなく、小池が風呂好きという情報があったからや。
昼は周辺の目撃現場を確認し、夜はサウナで成果を報告し合った。徳島から来たコワモテの刑事がサウナの一角でヒソヒソと「捜査会議」をしていたなんて、一般客は夢にも思わんかったやろうな。
ある時、サウナの休憩所にいると、小指のない男が近づいてきた。「ワレ、どこの組のモンじゃ」と因縁でもつけられるのかと身構えると、男は「秋山さんの捜査に協力していますよ」と言い、小池の手配ポスターが写った携帯電話の待ち受け画面を見せてきた。聞けば男は地元のヤクザで、テレビで見たワシの捜査に共鳴して、子分と共に小池を探していると話していた。
北海道警察もごっつい協力的で、Jリーグの試合の合間にスタジアムのスクリーンに小池の顔を大写しにして「徳島県警の捜査にご協力ください」と呼びかけてくれた。
小池を追う中で殺人事件の公訴時効が撤廃され、英国人女性殺人事件の市橋達也、オウム真理教事件の高橋克也の両容疑者が長期逃走中に逮捕された。追い風を感じたワシらは、《おい、小池! そろそろだ!》という新たな手配ポスターを作成して追撃を強めた。
小池包囲網は着実に狭まったと確信していた2012年10月、当直から忘れもしない連絡が入った。