世界有数の長寿国として知られる日本。今や「人生100年時代」を超え、「人生120年時代」の到来を予測する専門家さえいるが、待ち受けているのは幸せな未来とは限らない。生きていくためには当然、お金が必要だが、年金制度への不安ゆえに“生涯働き続ける”ことを真剣に考える人もいるはず。「年金博士」こと社会保険労務士の北村庄吾氏は、早ければ10年後には“最低支給ライン”まで減額されると見る。
「現在の所得代替率(年金を受け取り始める時点の年金額が、現役世代の平均手取り収入の何%かを示すもの)は61.7%ですが、小泉政権時の2004年の年金改悪で導入されたマクロ経済スライド【*】により、年金は毎年0.9%ずつ実質目減りしていくと考えられます。早ければ10年後にはセーフティネットとして機能する最低ラインとされる所得代替率50%まで下がると見込まれます」
【*年金制度が破綻しないように平均寿命の延びや人口減少、経済状況(デフレ下では発動されない)に応じて年金給付水準を自動的に引き下げる制度】
具体的にはどの程度、減らされてしまうのか。
「厚生年金のモデル世帯(夫婦2人)受給額は月約22万円ですが、これが約18万円まで減る計算です。モデル世帯とは夫が40年間厚生年金に加入して平均的な収入を得て、妻はその間専業主婦を続けた世帯のこと。それ未満の加入期間しかない多くの世帯では、月14万~15万円など、さらに少ない受給額になっているはずです」(北村氏)
問題となるのは減額だけではない。政府はこの4月から「在職老齢年金制度」を見直し、働く高齢者(60~64歳)の賃金と年金の合計が「月額28万円」を超えると超過分の半額にあたる年金支給が停止されていたのを、「月額47万円」まで基準を緩和した。現役並みに働きながら年金をもらう人にはお得な制度改正に思える。だが、この国民への“アメ”の裏側には“ムチ”が潜んでいる。