天才少年がドジョウのように組織に潜り込む
短期間で、柔軟な事業展開ができるのは長年、研究開発を充実させてきたことが大きいだろう。
2021年12月期の研究開発費は1427億元(2兆7969億円)で売上高の22.4%に当たる。この10年間で投入した研究開発費は8450億元(16兆5620億円)。研究開発に携わる人員は10万7000人で、全体の従業員の54.8%に当たり、2021年12月期は2000人の研究員を増員した。会社側発表によれば、この研究開発費(2021年12月期)は世界で第2位だそうだ。
人材の質はどうだろうか。
華為技術は2019年、優秀な人材を獲得するための戦略として“天才少年招聘計画”を開始、学歴、出身大学は一切問わず、数学、コンピューター、物理、素材、半導体チップ、スマートマニュファクチャリング、化学などの分野で特別な成果を打ち立て、将来有望と目される若者をグローバルで募集、これまでに300人余りの“天才少年”を雇い入れている。
気になる年俸だが、3つのクラスに分かれており、最高は182万~201万元(3567万~3940万円)、二番目のクラスは140.5~156.5万元(2754万~3067万円)、3番目は89.6万~100.8万元(1756万~1976万円)である。
2019年に201万元(3940万円)で雇い入れた第1期生の“天才少年”の内の1人は、入社1年もたたない間にオートモービル大規模ビジネス部門のリーダーに抜擢されている。
任正非CEOはこの計画を始めるにあたり、「これらの天才少年はドジョウのように組織に深く潜り込み、華為を根底から掘り起こし、活力を与える隊員である」と発言している。これほどの規模の企業であれば、トップが会社全体を見渡せなくなってしまい、どうしても組織運営が官僚化してしまう。しかし、そうした欠点を、既存の“しきたり”に染まらない博士課程を修了したばかりの優秀な若者を組織の各部署に潜り込ませることで、解消しようとしている。
このところ、中国経済は減速傾向を強めている。米中覇権争いの激化、グローバル経済の分裂・ブロック化、労働人口の減少、量的成長を追求する政策から質的成長を求める政策への転換など、内外の経済環境を見る限りでは成長の大幅鈍化が示唆される。
もし、今後も成長を続けることができるとすれば、イノベーションによる持続的な生産性の向上が不可欠であるが、そのカギを握るのは企業のイノベーション力である。
華為技術だけが特別ではない。アリババ集団も、テンセントも、美団も、それぞれ戦略は違うが、斬新なやり方で逆境を乗り越えようとしている。中国経済を取り巻く環境は、マクロでは厳しくみえるが、ミクロは案外しっかりしている。中国経済の底堅さがよくわかるだろう。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も発信中。