故人の財産を引き継ぐ遺産相続。プラスの財産だけなら良いが、借金などの負債を残して亡くなった場合は注意が必要だ。たとえば故人が奨学金の保証人になっていたことを知らずに遺産を相続した場合、遺族に返済義務はあるのだろうか。実際の法律相談に回答する形で、弁護士の竹下正己氏が解説する。
【相談】
叔父が亡くなり1年が経ちましたが、叔父が甥(叔父の弟の息子)の大学の奨学金の保証人になっていたことが判明し、叔母(叔父の妻)が困っています。甥はまだ奨学金の返済を終えていませんが、叔父が亡くなった後は、叔母が保証人を引き継がなければならないのでしょうか。いまのところ奨学金の返済は滞ってはいませんが、万が一返済が滞ることを考えると不安だそうです。どうしたらよいのでしょうか。(埼玉県・48才・パート)
【回答】
被相続人(故人)の債務は相続されるので、叔母さんは叔父さんの奨学金の保証債務を相続しています。法定相続分の範囲の相続ですから、相続人が叔母さん1人の場合はすべて叔母さんが相続しますが、子供がいる場合は叔母さんの相続分は2分の1となり、叔母さんの保証責任も半分です。叔母さんが不安を持つのは当然ですが、保証人である叔父さんの地位を相続した以上、その責任は免れません。
叔母さんとしては、相続放棄して相続しないという選択も可能でした。相続放棄すると最初から相続人にならなかったことになるので、叔父さんの保証債務を相続することもありません。この相続放棄は家庭裁判所に申し出て(申述)、受理されることが必要です。
では、いまから相続放棄すればよいかといえば、簡単ではありません。相続人が相続の開始を知ったときから3か月以内に相続放棄をする必要があるからです。この期間を熟慮期間といいます。叔父さんの死亡を機に、妻である叔母さんは当然相続開始を知っているでしょう。1年経ったいまはとっくに熟慮期間を経過しており、相続放棄をすることはできません。これが原則です。