しかし最高裁は、相続人が3か月以内に相続放棄をしなかったのが、相続財産がまったく存在しないと信じたためであり、さらにこのように信ずるについて相当な理由がある場合には、熟慮期間は相続人が相続財産があることがわかったときか、通常ならわかったはずといえるときから起算するのが相当であると判断しています。
つまり、叔父さんにまったく遺産がない状態であり、そう信じたことに過失がない場合には、奨学金の保証債務について知ったときから3か月以内であれば相続放棄が可能です。どの程度の事情があれば同居の配偶者において相続財産がまったくないと信じたことに相当な理由があると認められるかは難しいところですが、甥の奨学金であれば、わからなくてもやむを得ないかもしれません。
また家庭裁判所は、厳密な事実認定を踏まえての判断というより、不合理な主張でなく、一応の根拠があると受理してくれる可能性があります。叔父さんが奨学金の保証をしていると叔母さんが知り得なかった事情やそのことがわかっていれば相続放棄したはずと思われる事情を説明して、相続放棄の申述にトライする価値はあると思います。しかし、相続財産を処分していたり、子供と遺産分割をしていた場合には、相続放棄は難しいと思います。
【プロフィール】
竹下正己/1946年大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年弁護士登録。射手座、B型。
※女性セブン2022年5月26日号