何もないところから裸一貫で勝負して、大きなビジネスを成功させる人は何が違うのか。そして、そうした人はこれからビジネスに取り組もうと考えている人に、どんなアドバイスを送るのか。山形から出てきて、東京・渋谷で複数の居酒屋店舗を経営するようになった社長の考え方について、同店の常連でもあるネットニュース編集者の中川淳一郎氏がリポートする。
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東京・渋谷にある居酒屋「やまがた」の社長、T氏(80代男性)には本当にお世話になっています。私は24年通い続けていますが、警察関係の重鎮や、政財界の有力者も同店の常連で、T氏の好意で東京競馬場のVIP席に招待してもらったこともあります。いつも店に行くと奥の席に陣取っていて、「おい、ナカちゃん、こっち来いや!」と言い、ビールを一杯おごってくれたりもします。
そしてその席から、店の前で入るかどうかを迷っている客に「いらっしゃーい!」と呑気に声をかけるのです。入店を逡巡していた客がT氏の愛嬌にほだされて中に入ってきたのを何度も目撃しています。
そんなT氏ですが、山形から10代後半で上京し、その後、渋谷で居酒屋を複数店舗経営するまでに至りました。同氏の居酒屋経営の手法で注目すべきは、従業員が中国人という点だと思います。
2000年代前半、生活に必死な中国人を雇ったらとにかく真面目に働き、さぼらない。以後、その信頼できる中国人従業員から、また信頼できる中国人を紹介してもらうようになって、常に従業員は中国人です。もちろん中国人なら誰でもいいというわけではなく、人を見る目に長けているのでしょう。
「9時が定時なら7時に出社しろ」
長年、居酒屋経営を続けているT氏だからこそ、ビジネスの肝要を肌身で知っています。自分の仕事(居酒屋経営)と畑違いの分野であっても、どうすべきかということがわかっているように思います。
T氏はかつて、就職を前にした甥に「お前は頭は良くない。だが出世する方法はある」と伝えたそうです。「朝の9時が定時だとしたら、7時に会社に行き、掃除をしたり色々と雑務をしろ。そしてタイムカードは9時に押す。そういうことを新入社員の最初からしておけ」と言ったといいます。