そこで思いついたのは、「市は主催者ではなく、主催者を支援(応援)するポジションを取ればいいのでは」ということです。たしかに市でイベントを開催した経験はない。その一方で、イベントを開催する際は多くの許可申請手続きが必要になる。そうした手続きは、むしろ市にとって得意分野(というより本業)なわけだから、その部分は市が全面的にバックアップすればいい。主催者には、イベントの中身(内容)にエネルギーを注いでいただこう。そうすれば、唐津でイベントがやりやすくなり、街が音楽で賑わうはずだ。……というアイディアです。
「日本で2番目のミュージックコミッション」
「主催者を応援する仕組み」のヒントになったのが、映画の撮影を誘致する「フィルムコミッション」です。映画制作にあたり、監督や制作会社のサポートをして、まちをPRする仕組みが全国で取り組まれています。その音楽版をやってみようじゃないか、と。
まずは同じような取り組みをしているケースがないか検索してみたところ、1件だけヒットしました。京都の舞鶴市に「舞鶴ミュージックコミッション」が2018年5月に設立されていたのです。自分が一番最初に思いついたんじゃなかったのか、と少し残念でしたが、すぐに“先輩”にお話を伺うために京都・舞鶴へ向かいました。この時、自分が消防士であることはすっかり忘れていました(笑)。
すると、まさに僕が思い描いていた市役所が支援する仕組みの前例をお持ちでした。そのノウハウを沢山聞かせていただき、お礼を伝え、最後に「日本で2番目のミュージックコミッション」を名乗ることのご快諾もいただき、晴れて日本で2番目のミュージックコミッションを名乗る権利を得ました。だれもその権利を管理してないのは重々承知です。
舞鶴でお話を聞いてから、行政が音楽業界を支援・応援することで音楽の裾野が広がるということを確信し、2020年3月に「唐津でロックフェスの開催を目指す唐津ミュージックコミッション構想」を発表しました。この報告書では、「いかにしてミュージックコミッションの仕組みを設立させるのか」や「ミュージックコミッションで取り組む事業」について、より具体的に記載しました。
「音楽業界を支援することで街が賑わう」という構図のイメージは、その頃から既に僕の頭の中で固まっていました。ただ、この構想を人々に理解いただくことに関しては次のハードルが待っていました。
僕は再三「1万人のフェスを開催する」と言っていましたが、これについては多くの方が勘違いしていました。「山口、1万人のフェスを開催するって相当の覚悟が必要だぞ」と。いや、そうじゃないんです。支援するんですよ。
そう説明しても、うまく伝えることができない。だったら、見た目でPRすることにし、「唐津で1万人ロックフェスしたい」と書いた白Tシャツを作ったのでした。そして、「じっくりと時間をかけて多くの方に構想を伝えていく」という方針に切り替えたのが2年前のことです。