手続きを進めるための基礎知識は表にまとめたが、トラブルの種にも注意が必要だ。山本氏は「相続放棄したことを“次順位の相続人”に伝えておくことは必須です」と強調する。
「第一順位の法定相続人である故人の子供が全員、相続放棄の手続きをすると、相続人は第二順位(故人の両親)、第三順位(故人の兄弟姉妹甥姪)へと移っていきます。事前に連絡しないと、親戚がいきなり債権者から借金の返済を求められるといった事態になり、親戚関係が破綻しかねません」
主なトラブル例は図にまとめた通りだ。相続放棄したくてもできなくなる「NGリスト」も参考となる。
「たとえば、維持費がかかるからと親の車を急いで処分するのは注意が必要です。査定で『無価値』と判断された後ならいいのですが、値段がつくなら『相続した遺産』を処分したことになる。車に限らず価値がありそうなものを処分するのはリスクとなります」(椎葉氏)
親の資産と負債のどちらが多いか不明な場合、「限定承認」という選択もあると椎葉氏は言う。
「結果として借金のほうが多ければ、相続した資産の額を上限にして借金などを支払って済ませられる仕組みです。相続発生から3か月以内に家裁に申し立てて承認を受け、その後、官報に公告を出さなければならないなど、手続きは煩雑ですが、あとから多額の借金が発覚しても支払いに限度が設けられるので、そのメリットは小さくありません」
制度を予め知っておくことで、避けられるリスクもあるのだ。
※週刊ポスト2022年6月3日号