人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である多摩大学特別招聘教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第36回は、世界中でインフレが加速するなか、富裕層の投資行動から資産防衛について考える。
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世界中で物価上昇が止まらない。長らくデフレが続いてきた日本でも、企業間の卸売物価を示す企業物価指数が4月に前年同月比で10%も上昇。比較可能な1981年以降で初めて2ケタ上昇し、過去最高を更新した。総務省が5月20日に発表した4月の消費者物価指数(生鮮食品を除く)も、前年同月比2.1%上昇。インフレ率が2%を超えるのは消費増税による影響を除くと2008年9月以来およそ13年半ぶりとなる。
現時点では、企業物価指数と消費者物価指数の間には8%近いギャップがあり、その差は企業が負担することで急激な値上げとはなっていない。だが、企業努力にも限界がある。いずれは商品価格に転嫁され、消費者物価指数のさらなる上昇は不可避だろう。
そうした世界的なインフレの背景には、コロナ禍に加えウクライナ問題があるが、なかでも原油をはじめとしたエネルギーや小麦などの価格高騰が大きい。ロシアへの経済制裁によってエネルギー価格の高騰が続き、ウクライナやロシア一帯は世界の小麦生産量の約3分の1を占める穀倉地帯であるため、需給はタイトな状況が続いている。一部では、世界的なインフレもそろそろピークと見る向きもあるが、ウクライナ問題の長期化が予想されるなか、当面は物価上昇に歯止めがかかりにくい状況が続く可能性が高い。
まだまだインフレが続く以上、考えておかなければいけないことがある。インフレはモノの価値が上がって、お金の価値が下がる。それまで100円で買えていたものが200円に値上げされれば、お金の価値が目減りするのは当然の話だろう。そのため、お金の価値を目減りさせないよう「資産防衛」を考えておく必要があるのは言うまでもない。
残念ながら超低金利下の日本では、大手銀行などの定期預金金利は年0.002%程度とお金はほとんど増えない。世界情勢が不安定だからといって、現金や預貯金で持っていても、インフレには到底太刀打ちできないのだ。そのため、例えばこの先価値が上昇していくと見られる資源や穀物、金などに資産を分散しておくなど、何らかの手を考える必要があるだろう。