かつて「一億総白痴化」という流行語があった。テレビばかり見ていると人間の思考力や想像力が低下し、白痴になってしまうと警鐘を鳴らした評論家・大宅壮一氏の言葉だ。この言葉が流行したのはテレビの普及期である1950年代後半のことで、その後もテレビは日本のお茶の間に欠かせない存在として親しまれてきた。
だが、YouTubeを中心としたインターネット動画が手軽に見られる昨今、若年層にとってテレビは「毎日欠かさず見るもの」ではなくなっている。こうした意識の変化を反映してか、10代の若者にとって「テレビを見る」という言葉の意味自体が変化しているようだ。
大手予備校で講師を務める男性・Aさん(40代)は、若者と接するなかで近年「『テレビを見る』という言葉が通じなくなってきた」と語る。
「先日、高校2年生に向けて『テレビを見る時間を毎日1時間減らして、その時間に音読をしたり、英単語を覚える時間に充ててほしい』と言いました。すると、彼らが口々に『先生、テレビってどれのことですか? YouTubeとかTVerも入りますか?』、『ネトフリ(Netflix)もダメですか?』、『YouTubeの英会話動画は? それは勉強に入りますか?』と質問攻めにあったんです。
彼らにとってテレビは、地上波の番組を見ることではなく、YouTubeやNetflixなど、さまざまな動画を見るための再生装置のひとつでしかない、ということです。この発言を耳にして、自分自身がいかに“おっさん”なのか気づかされました。長く予備校講師をしていますが、テレビに関する世代間ギャップを特に感じるようになったのはここ数年です」(Aさん)