あれからン十年。4630万円事件の話に戻ると、誤送金がわかったとき、その男性に対する役所側の口の利き方って、実はめちゃくちゃ大事だったと思う。最初に銀行に行くまでの車の中での若者との会話も、考えただけで気が遠くなるほど神経を使って当然、と私は思うんだわ。
そんな部署があるかどうか知らないけれど、役所の危機管理室のエースが出てきても間に合うかどうか。個人的に身銭を切って手土産持って頭を下げる、くらいの覚悟が必要だったんじゃないかしら。
だってね、カツカツで暮らしてきた人間の口座に大金が振り込まれたらどうよ。ミスした人間が平気な顔で暮らすために、なんでオレがつきあわなくちゃならない?と私なら思うね。そこでもし、お代官様が民草を見下すような上から目線をチラッとでも見せたら、反発心を抑えきれず、黒い自分が出てくる。
“黒い”ってどんな?
かつて20年ほどギャンブル依存症だった私には、あの若者の考えが手にとるようにわかるんだわ。ギャンブラーが棚ぼたでお金を手に入れると、借金など忘れて突っ込むものだけど、そんなもんじゃない。目の前に管理の甘いお金があると、こっそりお借りしてひと勝負。倍にして元本を返せばみんなハッピー、という妄想をする。そのくらいしないと、この貧しい暮らしから抜け出せないんじゃないかとかね。
私に間違って届いたのは使い道がない督促状だったけど、もしあれがゲンナマだったら……くわばら、くわばら!
【プロフィール】
「オバ記者」こと野原広子/1957年、茨城県生まれ。空中ブランコ、富士登山など、体験取材を得意とする。
※女性セブン2022年6月16日号