日本の教育現場では教員不足が叫ばれ、“忙しすぎる教員”問題も深刻化している。経営コンサルタントの大前研一氏は、この問題を解決するには「21世紀の教育と教員の役割はどうあるべきか」を考える必要があるという。どういうことか、大前氏が解説する。
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教員免許に10年の有効期限を設け、更新時に講習の受講を義務づける「教員免許更新制」が廃止されることになった。5月に法改正され、7月1日以降は更新手続きなどが不要になる。
教員免許は、2009年度以前に取得した旧免許とそれ以降に取得した新免許があり、これまでは過去に取得しながら更新されずに失効した免許を復活させるためには30時間の講習が必要だったが、7月から旧免許は自動的に復活し、新免許も申請すれば講習なしで再取得が可能になる。
今回の制度廃止の背景には、慢性化・深刻化する「教員不足」があるというが、私に言わせれば本末転倒だ。
もともと、この制度は教員の指導力向上を目的として導入されたものである。それなのに、今回の廃止によってすべての教員免許は事実上「無期限有効」になるわけで、大学時代に教員免許を取得して以来スキルアップを怠っている教員や、教員経験がない“ペーパーティーチャー”でも講習なしに教壇に立てることになる。だが、運転の技能レベルが落ちたドライバーや、運転経験がないペーパードライバーが道路を走ったら、事故が増えるに決まっている。教育の本質を忘れた浅薄な制度「改悪」だ。
たしかに、教員が忙しすぎるという問題は現実に起きている。文部科学省が学校側に課している「学習指導要領」はどんどん分厚くなる一方で、そのうえ「主体的・対話的で深い学び」(アクティブ・ラーニング)などの新たな取り組みが求められている。かてて加えて、部活動の顧問としての長時間拘束、学校事務の増加、いじめ、モンスターペアレントへの対応といった問題で負荷が増え続け、教員が疲弊しているという。
しかし、これらの議論も見当違いだ。「21世紀の教育と教員の役割はどうあるべきか」を真剣に考えれば、あっという間に解決可能な問題だからである。