固定電話を解約しておくことも、お金のトラブルを防止するのに役立つ。
「オレオレ詐欺対策としてはもちろんですが、テレビや新聞で見た通信販売業者に電話して買い過ぎないためにも有効です。認知症の親が通販にハマることは多く、子供が業者に『うちの親に売らないで』と頼むこともあると聞きます。固定電話をやめてスマホに一本化すれば、発信先番号を限定することができるので、通販などで無駄な出費を重ねて相続時の財産が減るのを未然に防ぐことができます」(太田氏)
必要なのは家族の“納得”
親子で不動産の情報を共有しておくことも大切だ。相続の際に、実家の土地や家屋が思わぬ障壁になることがある。
「認知症だった父親の死後、実家の登記上の名義が随分前に亡くなった祖父のままであることを初めて知った50代の男性がいました。相続手続きのため、大量の相続人に連絡したものの見つけられなかったり、同意を得られない人もいて、『実家を売りたくても売れない』と嘆いていました。認知症になる前に親子で情報を共有して父親への名義変更ができていれば、男性の苦労は軽減できたかもしれません」(太田氏)
近年はパソコンやスマホのパスワードを共有することも重要な要素だ。
「ネット証券などは自宅に郵便物が届くことが少ないため、そもそも親が取引していた事実を子供が知らず、財産の存在自体を把握できない可能性もあります。子供に教えるのがためらわれる場合は、終末期の延命治療や死後の葬儀の意向に加えて、金融資産の情報をすべてエンディングノートに書いておくとよいでしょう」(太田氏)
また、親の死後、相続人同士のトラブルを防ぐことを考え、「法的な手続き」を適切に踏んでおく必要もある。
「認知症を患った父親の介護のために新幹線で実家に通い面倒をみていた長男の話です。自身の定年退職後は、父親の口座からお金を引き出して新幹線代に充てていたところ、弟(次男)から『父親のカネを使い込んだ』と責められ、相続時にもめたそうです。父親が認知症になる前に長男を任意後見人に選んでおくようにすれば、交通費は『後見事務を行なう実費』として認められ、父親の財産から支出できたはず。兄弟がもめることはなかったかもしれません」(太田氏)