任意後見制度は、うまく活用すれば助けになるケースもある。ただし、任意後見人が代理できる行為は、任意後見契約書で定めた項目だけに限られる。代理権目録に記載されていない行為は認知症が発症した後に必要な行為であっても代理することはできないため、契約を結ぶ際は代理行為の内容をよく考える必要がある。
「きっと大丈夫」と口約束で話していたことが、死後認められないこともある。太田氏が言う。
「親の面倒をみるため定期的に実家に通っていた子供の一人が、親から口約束で『この家はあなたにあげる』と言われていたのに、親の死後、何もしていない他の兄弟姉妹に『聞いていない。遺産は等分するのが当たり前だ』と反対されたというケースはよくあります。誰に実家を相続させるかでもめることが想定される場合、公正証書遺言を作成しておくことで、トラブルを避けることができます」
相続・生前対策に取り組む斎藤竜氏(リーガルエステート代表司法書士)はこう言う。
「相続紛争を止められるのは、家族の納得です。遺言で誰に家を相続させると書いていても、その理由を伝えなければもめる原因になることがある。親が健全なうちに兄弟、姉妹も揃ったところで腹を割って話し合うことが必要です。
口にするのが難しければ、理由や過程をエンディングノートなどに書いておくだけでもいいでしょう」
※週刊ポスト2022年7月8・15日号