2025年に患者数が700万人に上ると予測されている「認知症」。老親のどちらか一方でも患うと、「相続」に大きな影響を及ぼすことになる。
元気なうちに財産を子供に円滑に移転するには、「生前贈与」という選択肢もある。しかし、そのやり方には注意が必要だ。相続・生前対策に取り組む斎藤竜氏(リーガルエステート代表司法書士)はこう言う。
「症状の度合いにもよりますが、認知症で意思能力がないと診断された場合、贈与は認められません。すでに実施された生前贈与であっても、相続時に他の相続人から『贈与時には親が認知症だった』と贈与の無効を主張され、争いになることもあります」
適切に生前贈与をしておくと効果的な「相続税対策」になり得る。
「ちょっとした対策を知ることで、『早めに生前贈与をしてもらえば相続税がかからなかったのに』と後悔せずに済みます。例えば、1人あたり年間110万円までの暦年贈与を子供に加えてその配偶者や孫たち6人に実施すれば、年間660万円を財産移転でき、5年で3300万円を圧縮することができる。それだけ対策すれば、相続財産が非課税枠に収まる人は多いはずです」(斎藤氏)
生前贈与は親が亡くなる3年前までの分が遡って相続財産にカウントされるため早めの対策が求められる。さらに老親の健康状態が悪化するより先に、制度上の「期限」が迫ってきたものもある。
「孫1人あたり1500万円までが非課税の教育資金の一括贈与は2023年3月末まで、子や孫1人あたり500万円または1000万円までが非課税の住宅取得等資金の贈与は同年12月末までの期限が設けられています。老後の生活資金に余裕があり、認知症になった後も孫などへの援助を続けたいというケースでは手続きを急いだほうがいいでしょう」(斎藤氏)
こうした生前贈与を行なうメリットは、相続時のトラブル回避や節税だけではない。
「生前贈与なら、資産の持ち主が自ら承継先を決めることができます。生前に所有権が移転した財産については遺産分割協議をしなくて済むため、トラブルを未然に防いだとも言える。また遺言と違って、相手に直接感謝を伝えることができる点も、生前贈与のメリットだと思います」(同前)
※週刊ポスト2022年7月8・15日号