2025年に患者数が700万人に上ると予測されている「認知症」。老親のどちらか一方でも患うと、「相続」に大きな影響を及ぼすことになる。具体的にはどんなケースが考えられるのか。ここでは「被相続人が認知症」と診断された場合のトラブル事例を見てみよう。
相続を円滑に進めるには、故人の意思を残せる「遺言書」が重要となる。一般的に遺言書は、本人が自筆で記入して自宅や法務局で保管する「自筆証書遺言」と、公証役場で公証人と2人の証人が立ち会って作成する「公正証書遺言」のどちらかを選択することになる。
しかし、被相続人が認知症になると遺言書の信憑性が疑われやすい。南青山M’s法律会計事務所代表の眞鍋淳也弁護士が解説する。
「自筆証書遺言は、『“遺言書”の見出し』『“財産を長男に相続させる”といった簡単な内容』『署名』『日付』の要素さえ満たしてあればいいので、認知能力が衰えていても書ける人が少なくない。そのため、相続人が指示して自分に有利な文面を書かせたり、認知症と診断される前の日付を書かせるケースがあります。実際に、『日付を認知症と診断された以前に書き換えても大丈夫でしょうか?』と、遺族から相談を受けたこともあります。もちろん違法行為なのでNGです」
そうなると、費用や手間はかかっても「公正証書遺言」のほうが安心な気がするが、公正証書遺言の信頼性を相続人側が悪用しようとしたケースもあるという。
「認知症の親の遺言書が3つ見つかったことがありました。最初のものは『遺産を全部次男へ』という内容の公正証書遺言でしたが、後の日付の2つは『すべての遺産を長男へ』という内容の自筆証書遺言と公正証書遺言になっていました。原則的に日付の新しい遺言書が有効となりますが、次男から『長男が用意した公正証書遺言は、そもそも偽造ではないのか』という相談を受けたのです。
長男は念のために信頼性の高い公正証書遺言まで用意したのですが、認知症と診断した医者のカルテを遡ると、長男が認知症とわかっていながら遺言書を書かせたうえ、医者に偽造を持ちかけた証拠が残っていました。結局、長男の相続欠格(相続人の資格剥奪)となりました」(眞鍋氏)