6月末、ロシア政府が樺太の天然ガス採掘事業「サハリン2」(企業名はサハリン・エナジー・インベストメント)を事実上“接収”するという大統領令が出された。日本の三井物産と三菱商事はサハリン2に出資(それぞれ12.5%と10%)し、日本へLNG(液化天然ガス)を送るという権益を持っていたが、それが奪われる形だ。虎の子のプロジェクトとして育ててきた2社にとって、「撤退」となれば経営へのダメージは大きい。【全3回の第3回。第1回から読む】
いち早くサハリン2からの撤退を表明した英国シェル社は今年1~3月決算で42億3500万ドル(約5500億円)の損失を計上したと発表している。
では、日本の商社が撤退を余儀なくされた場合、どれくらいの損失が出るのか。
三菱商事は今年3月期決算でサハリン2の投資価値を500億円減額、三井物産もロシアLNG事業の総資産を806億円減額した。
「三菱商事のロシアでの天然ガス事業はサハリン2だけで、銅や石炭などの資源開発は行なっていない。影響は比較的軽微とみられます」
経済ジャーナリストの有森隆氏はそう語り、影響が大きいのは三井物産だという。
「三井物産はサハリン2に加えて、ロシアの北極海に面したギダン半島の『アークティック2』というもう一つの“爆弾”を抱えている。
年産約2000万トンの巨大LNG事業で、物産は独立行政法人の石油天然ガス・金属鉱物資源機構と共同出資して10%の権益を持っている。2019年に調印されたばかりで、三菱商事も参加を打診されたものの、リスクが高いと判断して参加しなかった。
共同出資のため全負担はないと見られるが、それでも大統領令がアークティック2にも波及するような事態になれば、大きな損失を抱えることになりかねない」(有森氏)
不幸中の幸いというべきか、大手総合商社は折からの資源価格高騰で今年3月期決算は各社軒並み過去最高益(純利益)をあげ、経営に余裕がある。三菱商事は連結純利益が前期比5.4倍の9375億円で業界首位に立ち、2位は三井物産の9147億円、資源の比率が比較的低い伊藤忠商事(同8203億円)は首位から3位に下がった。
だが、来年3月決算では、「プーチンショックで順位が入れ替わる可能性がある」(同前)という。