難しい問題だが、この悩みに「免許返納はむしろ体調に悪影響を及ぼす」と言う人がいる。高齢者医療に詳しい精神科医の和田秀樹氏だ。大ベストセラーとなった著書『80歳の壁』には〈返納すると、6年後の要介護リスクは2.2倍〉との記述がある。
その論拠となっているのが、筑波大学が2019年に発表した「運転中止による健康への影響」だ。車を運転する65歳以上の約2800人を6年間にわたって追跡したところ、運転をやめた人は、運転を続けている人に比べて要介護認定のリスクが2倍以上高かった。和田医師が解説する。
「この調査の結果から公共交通機関が乏しい地方で免許返納をすれば外出の機会が減り、運動量や脳への刺激も少なくなって老化が進むことが推測されます。
健康寿命を延ばすには、免許返納で今できることを放棄してはいけません。加齢による判断力低下が事故につながることはたしかですが、そもそも事故は全年代のドライバーが起こしている。高齢者に認知機能検査が必要だと言うのなら、すべてのドライバーに受けさせるべきです」
ゴルフの帰り道は仮眠
歳を重ねるごとに筋力や反射神経などの身体機能が低下するのは避けようがない。「生涯現役」のドライバーを目指すにはどんなことに気を付ければいいのか。
参考にしたいのが「補償運転」という考え方だ。「補償運転」とは、簡単に言えば、加齢による運転技能の衰えを補うために実践する安全上の工夫のこと。2017年から警察庁が推奨しており、全国で呼びかけている。
具体的には、「夜間」や「雨の日」「長距離」の運転を控えるなど、運転する時と場所を制限したり、「ラジオや音楽を聞かずに運転に集中する」「以前よりスピードを出さない」など心身の環境を整えて危険を避ける方法が挙げられている。
70歳を超えても「免許は返納するつもりはない」と考えているドライバーのなかには、そうした慎重な運転を日々実践する人が多い。
歯に衣着せぬ発言がトレードマークの野球評論家・江本孟紀氏(75)もその1人だ。19歳で免許を取得し、68歳からは大型バイクのハーレーダビッドソンも乗りこなすが、運転は繊細だ。
「とにかく年齢相応の運転を心掛けています。昔は高速道路ではパトカーに追いかけられていないかバックミラーばかり気にしていましたが(苦笑)、今は走行車線の流れに乗って車間距離を保ちながら走ります。飛ばす若い人に追い抜かれてカッカすることもありません」
長距離運転が多いゴルフの際は、それぞれ独自のルーティーンがあるようだ。江本氏は「帰りは高速のサービスエリアで仮眠」を心掛けている。
「ここ7~8年、ゴルフで朝が早い時は徹底している。帰りにSAで休憩して一眠りすると頭がすっきりするのが分かります」(江本氏)