普通の親子であっても厄介な相続問題。もし親子が絶縁状態であった場合はどうなるのか。弁護士の竹下正己氏が実際の相談に回答する形で解説する。
【相談】
籍を抜いていない、20年以上も音信不通だった父親が、孤独死したようです。その父親が住んでいた賃貸マンションの管理会社から、家賃3か月分の滞納料金と、高額な部屋の清掃費用を請求されました。いくら戸籍上は父親だとはいえ、縁を切った状態の男に関する請求を払わなければいけないものですか。
【回答】
「籍を抜いていない縁切り状態の父親」ということですが、結婚したり、成人になった後に分籍手続を取れば、当該人物か、その配偶者を筆頭者とする戸籍が別に作成され、親の戸籍からは削除されます。
この意味で、「籍を抜く」といえばあり得ることですが、そもそも籍を抜いても、直系血族の関係、即ち親子の縁は切れません。
例えば、父親が生前、生活に困っていたとすれば、扶養義務が発生していたはずで、もし、扶養の請求があれば、20年以上音信不通であったことが扶養義務の程度や内容については考慮されても、全く免れるかは疑問です。また、父親が死亡すると、子供は相続人として遺産を相続します。父親に配偶者がいない場合、子供がすべてを相続するのです。
遺産には、プラスの物だけでなく、借金などのマイナス資産も含まれ、金銭債務は法定相続分によって相続人が承継します。従って、お父さんの滞納家賃は相続債務になります。部屋の清掃費は、通常の損耗費用以上の費用が発生したとすると、これも相続対象です。