検索履歴、サイトや動画の閲覧履歴、「いいね」など、ネット上での行動は、さまざまなウェブサービスによって記録され、ビッグデータとして分析され利用されている。そもそも、こうして集められた「私の情報」は、誰のものだと言えるのだろうか。悪用される恐れはないのだろうか。
いまから3年前に起きた「リクナビ事件」で、まさに恐れられていたことが現実のものになった。就職活動サイトのリクナビが、登録者の内定辞退率の予測スコアを、利用者である就活生の明確な同意なく、第三者企業に販売していたのだ。慶應義塾大学大学院法務研究科教授の山本龍彦さんが言う。
「日本でもっとも有名な、ビッグデータの乱用事件です。まず“前年度、国内企業からの内定を辞退して外資系企業などに入社した学生がどんなウエブサイトを見ていたのか”というデータを分析することで、学生の内定辞退率をAIで予測するしくみをつくる。これを採用試験を受けにくる就活生のウエブ閲覧傾向と照合させ、あらかじめ内定辞退の可能性の有無をスコアリングしていたのです」
就職活動の現場では、就活生のSNSの「裏アカウント」を特定し、素行や発言を調査して企業に報告する「裏アカ特定サービス」も横行している。ITジャーナリストの三上洋さんが説明する。
「匿名の裏アカで企業や個人の悪口を言ったり、モラルに欠けた発言をしていないかを企業が採用前に把握することが目的です。しかし、それが本当にその学生のアカウントだと断定することはできません。プライバシーの侵害になりかねないだけでなく、たとえどんなに精度が高くても、推測だけで学生から機会を奪っていることが大きな問題です」