若い世代の中には「早く起業したい!」と考える人もいるかもしれないが、「まずはいったんサラリーマン生活をしてみるのもいい」とアドバイスするのは、4年間のサラリーマン生活を経て独立・起業したネットニュース編集者の中川淳一郎氏だ。中川氏は将来的に起業するにしても、サラリーマン時代の経験は決して無駄にならないと力説する。中川氏が自らの経験をもとに、その真意を述べる。
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私は新卒で入った広告会社を27歳の時に辞め、その後はフリーランスのライター・編集者・PRプランナーになりました。35歳の時に会社を作りましたが、会社化した理由は2つあります。一つは、税金の面で有利なこと。もう一つは「法人相手でなければ取引できない」という取引先があったからです。となると、せっかく自分が仕事を受注しても、知り合いの会社にその元受けから発注書を出してもらうことになり、その知り合いの会社が15%ほどの手数料を取ったうえで、残りの額を報酬として受け取っていました。
これがアホらしいため、会社を作りました。その結果、収益が向上するとともに節税もできるようになりました。そして、会社を作った後は、サラリーマン時代の4年間の経験が実に役立ちました。というのも、零細企業経営者って、広告を出すわけにもいかないため、結局「人のツテ」で仕事を取ってくることになるんですよ。
一度会社に入ると、とにかく多くの人の縁が生まれることになります。自分の会社の様々な部署の人はもとより、社外でも多くの取引先に出会うことになるでしょう。そうした縁が、将来自分が独立して会社を作った際に、見込み顧客になる可能性があるのです。起業したいと考えている人は、よっぽどの経営センスとアイディアがある場合を除いて、一度会社に入って“基礎”を作った方がいいと私は考えています。
私の場合、なんだかんだいって、25年前に新卒で入った会社絡みの仕事が今でも続いているわけです。もちろん、同じマスコミ業界で扱うジャンルが近いということもありますが、「あの4年間があったからオレは零細企業を運営し続けられている」と思うことしきりです。
将来的に、サラリーマン時代の人脈を活用するために重要なのは、なんといっても円満退社をすることです。会社を辞めると決めたのであれば、半年ぐらい前から辞める意思をじわじわと周囲に伝え、「この会社がイヤで辞めるのではなく、本当に皆さんには感謝している。しかし、私にはやりたいことがある」ということを理解してもらう。
このやり取りを続けることにより、「わかった! これからお前もがんばれ! 何か困ったことがあったら言ってくれ」というポジションを築くことができます。会社とケンカ別れして辞めてしまうと、同じ業界内で「あいつに絶対に仕事を出さないように」といった通達が回り、仕事がなくなるかもしれません。もちろん、これまでと全然関係のない仕事をするのであればそれでもかまわないと思うかもしれませんが、本当にそうでしょうか。