米国市場から排除される意味
もとをたどれば米国の上場制度改革が始まった2018年が、株式市場における米中デカップリングが始まった時期であるが、それ以降の統計をみると、4社がプライベート化による上場廃止、9社が香港市場への重複上場、16社が香港市場への二次上場(直接公募、売り出しを行うのではなく、預託証券のような形で行う上場)を果たしている(前述の本土メディアより)。
アリババは2019年11月に二次上場による香港市場への回帰を果たしたが、7月29日の公告では香港での上場をプライマリー上場に移行すると発表している。ニューヨーク市場で上場廃止となっても香港市場において上場が維持できるようにする措置である。
米国上場の道を閉ざされた場合の影響が大きい民営企業についても、上場廃止に備えた準備が進められている。
証券市場としての厚みを考えると、現在も米国市場は圧倒的である。たとえば、8月12日の売買代金を比較すると、ニューヨーク市場は332億ドル、NASDAQ市場は1120億ドルであるのに対して、香港市場は750億香港ドル(96億ドル、1香港ドル=0.128ドルで換算)に過ぎない。時価総額ベースで比べれば、その差はさらに大きく、当然、中国企業が巨大な米国資本市場から門を閉ざされることによるデメリットは大きい。
もっとも、香港市場は欧米系金融機関が育て上げた市場であり、現在も彼らがメインプレーヤーとして君臨する市場だ。彼らにとって、中国企業は利益を生む“金の卵”である。彼らからすれば、中国企業が米国市場から排除されることによって、たとえばアリババや新興新エネルギー自動車、IT系銘柄など中国資本の有望銘柄が上場リストにないことによる機会ロスが発生する。
もちろん、香港、中国本土の主管部門が積極的に香港市場の育成、発展のために、より一層の改革を進めることが前提ではあるが、米国市場での機会ロスを補うために、欧米系投資銀行、機関投資家は香港市場での活動を強化するのではないか。
中国企業の香港市場回帰もビジネスにする欧米系投資銀行は、目立たないが、グローバル企業、グローバル機関投資家とともに、隠れた親中派である。政治主導の米中デカップリングは簡単には進まない。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も発信中。