8月12日大引け後、中国人寿保険(02628)、シノペック(00386)、ペトロチャイナ(00857)、中国アルミ(02600)、シノペック上海石化(00338)がニューヨーク市場での上場を廃止すると発表した。
少し補足しておくと、これら5社はいずれも香港市場に重複上場しており、米国上場はいわゆる二次上場である。ニューヨーク上場株は預託証券(ADR)と呼ばれる株式で、これは銀行に預託された一部の香港株を裏付けとして米国内で発行される。このADRだけが上場廃止となる。
これら5社は自ら上場廃止を決めたわけだが、その背景には政治による米中デカップリングの進展がある。
米トランプ前政権は2020年11月、中国国家が保有あるいはコントロールする中国企業に対する投資を禁止する政令を発布した。この法律に基づき、2020年1月、中国通信キャリア3社はニューヨーク市場での上場廃止を余儀なくされている。
2020年12月には、外国上場企業に対する規制を厳しくする法案「外国企業説明責任法」が成立した。監査法人による現地での検査を厳格に義務付ける条文があるが、中国共産党はそれを認めていない。
中国本土メディア(毎日経済新聞、8月12日)が米国側の統計を引用して伝えたところによると、3月時点で261社の中国概念企業(本社が海外にあっても、実質的な営業基盤が中国国内にある企業を含む)が米国市場に上場しているが、7月末時点で159社が既に上場廃止警告(上場廃止確定も含む)リスト入りしている。
かつては時価総額上位の常連であったアリババも、7月29日には上場廃止警告リストに入っている。
この問題について、現在も米中主管部門で話し合いが続いているが、関連する法律が既に成立しているため、強制的な上場廃止に向けた作業が着々と進められているような状態だ。
冒頭の5社はこの件に関して、それぞれ公告を出している。共通して言えることは、香港市場で流通する全株式に対して預託されている部分のウエイトは小さく、上場廃止による影響は軽微であること、上場を維持するためのコストに対してニューヨーク市場で上場することによるメリットが見合わなくなっていることなどだ。現在、上場廃止警告リストに掲載されている企業の内、香港市場に同時上場する国有企業については、これら5社と同じような状況だろう。
一方、香港市場に上場していない民営企業にとっては、上場廃止は厳しい措置となる。こうした企業は既存の株主が被る損失を最小限に抑えるとともに、資金調達の機会や、上場によって得られる信用度、知名度などのメリットを確保すべく、香港での重複上場を目指している。