遺された家族たちが相続でもめないために重要なのが「遺言書」だ。「家は長男に相続させよう」「介護をしてくれた長女にはたくさんお金を渡そう」……などと心に決めていても、遺言書を残さなければ意味がない。
遺言書には、公証役場で作成する「公正証書遺言」のほか、自分で手書きする「自筆証書遺言」もあり、最低限のことを手書きした「一行遺言」でも充分な場合がある。
遺言書の内容は争いの火種になることもあるが、亡くなった人の兄弟姉妹には遺留分がない。そのため、相続人となる子供がおらず、親もすでに亡くなっている場合、配偶者に全財産を残すには「妻(夫)にすべての財産を相続させる」という一行だけで足りる場合もある。
だが当然ながら、手書きの遺言書は不備によって無効になるケースも多い。相続・終活コンサルタントで行政書士の明石久美さんが言う。
「実子とは疎遠で、亡くなる前に世話をしてくれた妹に財産を渡そうと“家と家財は妹に。子供には財産は渡さない”という遺言書を書いた人がいました。子供には遺留分があるため、それを侵害することはできないほか、預貯金は『家財』に入りません。結局、書きもらした預貯金はすべて実子が相続することになり、遺言書をつくった人の思いどおりにはなりませんでした。このように、自筆証書遺言はミスをしやすく、想定外の不備で相続が思いどおりにならないことも多いのです」
仮に「妻にすべての財産を相続させる」という一行遺言をつくり、不備がなかったとしても、もし妻の方が先に亡くなってしまえば意味がなくなるため、ただ書けばいいというわけではない。
子供がおらず、一行遺言で済む場合も、夫婦それぞれが「自分が亡くなったら、相手にすべての財産を相続させる」という旨の遺言書を、互いにつくっておくのが賢明だ。
「不備がなくても、自筆証書遺言を作成したら法務局で保管してもらうのがいい。検認も不要になります。自宅で保管していた自筆証書遺言は、遺言者の死後に家庭裁判所で検認手続き(偽造変造防止手続き)を行わなければならず、亡くなった人の出生時から死亡時までの戸籍謄本をすべてそろえる必要があり、大変な手間がかかります」(明石さん・以下同)