ドル高が止まらない。主要通貨に対する米ドルの強さを示す指標であるドル指数は9月7日、2002年以来の高値を付けた。その後、少し調整してはいるが、依然として高値水準で推移している。
米国消費者物価指数が40年来の高値水準にある中、FRB(連邦準備制度理事会)はインフレ対策のためにハイピッチで利上げを進めている。優先順位としてインフレ退治は最優先課題であるから、それは仕方のないことなのだろう。だが、米国がドル高を容認する一方で、深刻な副作用が生じてしまう懸念がある。
株価の下落は連日伝えられている通り。これは非常にわかりやすい副作用だが、一方で、すぐには表面化してこないわかりにくい副作用もある。利上げが主な原因で起きるドル高による輸出の減少、輸入の増加、つまり貿易収支の悪化である。
短期的には価格調整に対して数量調整が遅れることによって生じるJカーブ効果で貿易収支は一旦、改善する。実際、7月の米国の輸出は21.9%増、輸入は14.0%増で、輸出の伸び率の方が高く、貿易赤字額は前年同月比でわずかの悪化に留まっている。しかし、長期的には赤字幅が大幅に拡大しかねない。
巨額の貿易赤字(経常収支の赤字)は財政赤字と並び、“双子の赤字”と称され、米国経済の弱点とされてきた。一旦解消された時期もあったが最近では再び深刻な状態となっている。その一つが更に悪化することになる。
貿易赤字問題では、中国との間で生じている貿易不均衡の解消が重要課題であり、トランプ前政権は2018年、中国に対して懲罰的な追加関税を科したが、それがバイデン政権になっても継続されている。
対中強硬策を打ち出し始めた2018年には、全体の輸入額に占める中国からの輸入の比率は21.2%、貿易赤字額に占める比率は47.7%であったが、2021年にはそれぞれ17.9%、33.0%まで低下している。成果は出ているとはいえそうだが、2022年7月現在も、輸入先トップは依然として中国だ。この状況でドル高が続けば、競争力の高い中国からの輸入が更に増えかねない。ドル高は米国の対中経済依存度を高めかねない。