中国自動車メーカーの輸出攻勢に対抗できるか
中国側の貿易統計をみると、8月の輸出(ドルベース、以下同様)は7.1%増で、輸入は0.3%増であった。3月以来、輸出の伸びが輸入を超えている状態が続いている。内需が振るわない中、外需は堅調だ。
中国の輸出製品は広範にわたり、かつ、競争力が高いものも多いが、自動車についてはこれまで日米欧に大きく後れを取っていた。しかし、8月の輸出台数は30万8000台で前年同期比65%増、新エネルギー自動車に限れば8万3000台で82.3%増と急増している。
中国大手自動車メーカーのBYDは3月、ガソリン車の生産を終了させるなど、業界を挙げて新エネルギー自動車への生産シフトを進めている。その背後には当局による企業側、消費者側双方での補助金政策、減税政策、充電設備など周辺環境の整備など、新エネルギー自動車普及に向けた総合的な政策がある。
それらの政策とは別に、5月中旬以降、新型コロナ禍で落ち込んだ景気を立て直すために、自動車消費拡大政策が打ち出されている。購入者に対する減税、補助金政策などが中心だが、その成果は顕著であり、国内の自動車生産台数は、5月の4.8%減から、6月は26.8%増、7月は31.5%増、8月は39.0%増と急増している。
実際に米国への新エネルギー自動車の輸出が目立つわけではない。しかし、世界最大の自動車、新エネルギー自動車生産国である中国が長期戦略としても、短期的な景気対策としても、強力な支援策を打ち出して、新エネルギー自動車の生産量を引き上げている。いずれは一大輸出産業に育つ可能性が高い。
1980年代、90年代の日米貿易摩擦では、半導体、自動車が大きな争点となったが、それはこうした産業が米国にとって重要な産業であるからだ。
半導体ではバイデン政権は既に中国への対抗策を打ち出している。今後、BYDのような中国系自動車メーカーが台頭し、米国に輸出攻勢をかけた場合、自動車産業でも同様に産業保護政策が打ち出せるだろうか。
米国の大手自動車メーカーは合弁事業を通じ、中国市場に深く入り込んでいる。中国への圧力は、米国企業の中国でのビジネスに深刻な影響を与えかねない。ドル高を野放しすることは、米国にとっても大きな副作用がありそうだ。
文■田代尚機(たしろ・なおき):1958年生まれ。大和総研で北京駐在アナリストとして活躍後、内藤証券中国部長に。現在は中国株ビジネスのコンサルティングなどを行うフリーランスとして活動。ブログ「中国株なら俺に聞け!!」(https://www.trade-trade.jp/blog/tashiro/)も発信中。