人は常に合理的な行動をとるとは限らず、時に説明のつかない行動に出るもの。そんな“ありのままの人間”が動かす経済や金融の実態を読み解くのが「行動経済学」だ。今起きている旬なニュースを切り取り、その背景や人々の心理を、行動経済学の第一人者である多摩大学特別招聘教授・真壁昭夫氏が解説するシリーズ「行動経済学で読み解く金融市場の今」。第42回は、「為替介入」の効果について分析する。
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急激に進んだ円安に歯止めをかけようと、政府・日銀は9月22日に「為替介入」に踏み切った。ドル売り円買いの介入は1998年以来、実に24年ぶり。その規模は前回を超える3兆円以上と推計されることから、まさに「伝家の宝刀」を抜いた格好である。
9月21日にFRB(米連邦準備制度理事会)が0.75%の追加利上げを決めた一方、翌22日には日銀が金融緩和の維持を決定し、日米の金利差がさらに広がることで、一時1ドル=145円台後半まで円安が進んだ。これに対して為替介入が行なわれたことで、22日は一時140円台前半まで、一気に5円ほど円高に動いた。
それだけを見れば、確かに為替介入の効果はあったといえるだろう。しかし、米国との「協調介入」ならいざ知らず、今回は日本側の「単独介入」である。単独介入は短期的な効果は発揮しても、長い目で見れば効いた試しがない。1998年の円買い介入でも、その効果は極めて限定的だった。
現に、週明けの26日には144円台まで戻るなど、その効果はすでに薄れている。今後、2回目、3回目の為替介入に踏み切ったとしても、「限界効用逓減の法則」によって効き目はどんどん薄れていくに違いない。
そもそも為替市場に当局が干渉する為替介入は、いくら単独介入といっても相手国の理解を得る必要がある。為替介入について米国は「1ドル=145円になったから」などと為替水準だけで判断することは認めておらず、あくまで短期間の激しい値動きに対してのみ一定の理解をする。今回はドル円相場が短期間で激変したために、米国側が日本単独の介入を容認し“援護射撃”した格好だ。
そう考えていくと、この先も激しい値動きに見舞われれば、為替介入に踏み切る可能性はあるが、その効果は極めて限定的にならざるを得ないのではないか。