その根底にあるのは、“FRBはインフレ退治のために利上げしても景気は悪化させないだろう”といった市場参加者の思い込みであり、実際には、FRBのパウエル議長は「ソフト・ランディング」ならぬ「ソフティッシュ・ランディング」という言葉を用いて利上げを断行している。「ソフティッシュ」とは、インフレ退治のためには景気悪化も株安も辞さないという決意表明であり、株式市場はもはやそれまでの思い込みが通用しない「コントロールの欠如」に陥ろうとしている。
FRBが、現在の8%を超えるインフレ率を目標とする2%にまで下げようとすれば相当な時間がかかるだろう。そのためには景気悪化も株安も辞さない構えを崩さないのであれば、当面は株価を反転させる大きな材料も見当たらない。
そして、そうなってしまえば、割安な日本株といえども無縁ではいられなくなる。高値から20%下落で弱気相場入りと考えれば、日経平均株価も高値から20%下落する2万5000円を割り込む展開になってもおかしくない。
世界の株式市場を牽引してきた米国株が変調をきたし、「世界同時株安」も現実味を帯びつつある。非常に危ういところに来ていることは認識しておくべきではないか。
【プロフィール】
真壁昭夫(まかべ・あきお)/1953年神奈川県生まれ。多摩大学特別招聘教授。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリルリンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学教授、法政大学大学院教授などを経て、2022年4月から現職。「行動経済学会」創設メンバー。脳科学者・中野信子氏との共著『脳のアクセルとブレーキの取扱説明書 脳科学と行動経済学が導く「上品」な成功戦略』など著書多数。近著に『ゲームチェンジ日本』(MdN新書)。