老後の備えとして必要とされる「老後資金2000万円問題」が大きくクローズアップされたが、それでは、貯蓄が2000万円ないと安心して老後を過ごすことはできないのだろうか。実は、定年後も働くことを前提とすれば、そこまで構える必要はないという。
総務省の家計調査では、働いていない2人以上の世帯で60代後半の月の支出額は、平均32.1万円。一方、月の平均給与収入は24.8万円なので、不足額はざっと月10万円弱。つまり、夫婦で月にあと10万円ほど収入を増やせば、赤字になることはない。
問題は「老後の2000万円」ではなく「月の不足額10万円」をどうやって稼ぐかだ。高齢就業者の数は18年連続で増加しており、昨年は過去最多の909万人になった。65~69才の就業率はついに昨年50.3%になり、2人に1人が働いている。特に女性の場合はこの世代の就業率は右肩上がりで、70.9%の女性が何らかの仕事をしている。
だが、年を取ってから必死に働いても、給与を増やすのは難しい。『定年後ずっと困らないお金の話』の著者でマネーコンサルタントの頼藤太希さんが言う。
「高年齢者雇用安定法が改正され、希望すれば70才まで働ける環境が整いつつあります。一方で、働き続ける高齢者への給与は、現役時代の水準を維持することが雇用する側に義務づけられているわけではありません。そのため、定年後は給与がガクッと下がる人が多い状況です。実際に、再雇用された人の給与は、現役時代と比べて平均44.3%も下がっているというデータがあります。再雇用だと、現役時代と同じ仕事内容でも、年収が下がることが多い」
これは、現役時代に高収入を得ていた人でも同じこと。むしろ、責任ある立場にいた人ほど、定年後はつらい現実を突きつけられることも多いという。『ほんとうの定年後「小さな仕事」が日本社会を救う』の著者でリクルートワークス研究所のアナリスト、坂本貴志さんが言う。
「役員を除く役職者は50代後半の26.9%をピークに、多くの人が定年退職を迎える60代で8.8%に激減。その後60代後半になると2.7%まで減ります。再雇用や再就職では、現役時代と同様の収入を求めることは難しい。しかも、定年後の再雇用や再就職で任される仕事は、現役時代と比べるとギャップがある場合が多い。大きな企業で重要なポジションにいた人は、仕事の意義を見いだせなくなることもあります」