ある日送られていたパンフレットとその後かかってきた1本の電話──高齢者が詐欺の手口に引っかかってしまった場合、代金を取り返すことはできるのか。弁護士の竹下正己氏が、実際の相談に回答する形で解説する。
【相談】
半年ほど前、A社から実家に宝飾品のパンフレットが郵送されてきました。その数日後にB社から電話があり、「宝飾品のパンフレットが届いていませんか。それは選ばれた人しか購入できない特別な商品なのでぜひ購入してください。そうしたらそれをB社で高く買い取ります」と言われ、高齢の父は商品を購入してしまいました。しかし、その後B社とは連絡が取れず詐欺だとわかりました。A社には返品・返金不可だと言われましたが、お金を返してもらうにはどうしたらよいですか。(群馬県・55才・主婦)
【解答】
お父さんのA社商品の買い取りは、A社の店頭に出向いたり、A社従業員の訪問を受けて契約したのではなく、パンフレットの指示に従って郵便や電話で申し込んだと思います。また、購入した宝飾品はB社が電話で話したような特別なものではないにしても、パンフレット通りで特に粗悪品ではなかったと仮定します。
A社からの購入は、特定商取引法が規制する通信販売になります。通信販売では、パンフレットなどの広告媒体に一定の事項を表示することになっていますが、A社の広告の中に返品に関する記載がなければ、お父さんは商品受取日起算で8日以内に契約を解除する権利があります。しかし、返品拒否のA社の対応から察するに、返品できない旨がパンフレットに明記されているのだと思います。
その場合でも、特定商取引法では、広告に不実の記載をして信じ込ませて契約をさせた場合には契約を取り消すことができますが、A社の広告には嘘がないのでこの条件に当たりません。
しかし、A社がB社に購入をすすめる電話をかけさせたとすれば、A社の商法は、B社を使って電話で勧誘し、申し込みを受ける形態の取引である電話勧誘販売に当たる可能性があります。その場合、事業者は、売買契約に関する事項であって、購入者の判断に影響を及ぼす重要な事項について不実のことを告げる行為を禁じています。