久しぶりに銭湯に行って汗を流した人も多いかもしれない? 去る10月10日は「スポーツの日」であると同時に「銭湯の日」でもあった。1964年の東京オリンピックの開幕日にちなみ、スポーツで汗をかいた後に入浴して健康増進につなげるという意味と、10・10の語呂が千十=銭湯と読めることから定められた。しかし現在、東京都内の銭湯の数はわずか476軒(4月時点)。最盛期だった1968年の2687軒からは8割以上が廃業している。54年の間に銭湯の数は5分の1以下となったのだ。今また、燃料価格高騰という逆風が吹き荒れる中、銭湯文化は再び衰退する恐れもある。
今年7月15日、東京都浴場組合に加盟する銭湯は入浴料を一律で引き上げた。それにより、都内一般公衆浴場の入浴料金は、大人(12歳以上)が480円から500円に、中人(6歳以上12歳未満)が180円から200円に、そして小人(6歳未満)が80円から 100円に変更となっている。
電気・ガス代の値上げが続く中、多くの湯を沸かすために燃料費がかかる銭湯は、燃料費高騰と入浴料の値上げをどう感じているのか。老舗銭湯経営者たちの本音を聞いた。
温泉の許可を取り、付加価値を高めた下町銭湯
「毎日来てくださっている方もいるので、やはり入浴料の値上げはしないに越したことはありません。でもガス代や電気代はもちろん、消耗品などとにかくありとあらゆるものが値上がりしているので……正直20円の値上げでは、物価の上昇率には見合ってはいないのかなとも思います」
こう語るのは、台東区・日の出湯の代表を務める田村祐一さんだ。日の出湯は大正時代の絵巻物にはすでにその存在が記録されており、創業は江戸時代の終わりから明治の初めと伝わる銭湯だ。田村さんの曽祖母が1939年に日の出湯の経営権を買い取り、今日まで続いている。
田村さんが家業を継ぐことを決めた2012年頃の日の出湯は、人気がなく廃業寸前だった。若い田村さんが経営の立て直しに入り、インターネットでの情報発信やイベント開催などのアイディアを増やした。名物、台湾産の古代檜を使った檜風呂はご近所以外の銭湯好きにも知られるようになった。そうしてわずかながらに黒字に転じていったのだった。
日の出湯は第二次世界大戦の戦火、2000年代からの経営難、そして近年のコロナ禍とその都度ピンチを乗り越え生き延びてきたのだが、このたびの燃料費の高騰には屋台骨がぐらついたという。
「新型コロナの流行でお客様が減った時には、常連さんによって助けていただきました。でも今回の燃料費高騰は、状況がもっと厳しい。うちは毎月のガス代が平均20万円台だったんですが、今年頭に50万円台に跳ね上がりましたから」(田村さん)