以降、月々のガス代は下がらず、収支は一気に赤字になった。
「うちは大きなサウナもない、小さく狭い銭湯。だから集客は本当に大変です。今後は、以前からフロントで販売していた手作りのカフェメニューを増やそうかと考えています」(田村さん)
日の出湯では手作りのコーヒー牛乳やジンジャーエールを味わえる。田村さんが材料にこだわり抜き自分の舌でレシピを決めた人気のメニューだ。そのため飲食店としての許可証も取得済みだ。
さらに『浅草天然温泉』という言葉を使い、「銭湯なのに温泉」という点をもっとアピールすることにしたという。
「うちのお湯は、台東区に湧く天然水を今も無濾過で沸かしているんです。そのため湯が柔らかく、肌にいいと昔から評判です。そこをきちんと伝えたいと、改めて『温泉』の認可をとりました」と田村さんは語る。燃料高騰に討ち克つため、湯そのものの付加価値をあらためて見直したのだ。
創業70年超えの老舗の中心客は女性や若者
「和風旅館のようなおもてなしが我々の目標です」
そう語るのは、文京区・豊川浴泉の三代目、岡嶋幸夫さん(64)。豊川浴泉は、文京区に4軒だけ残る銭湯のうちのひとつだ。創業は昭和25(1950)年。神田川がすぐ近くを流れる目白台の地に立ち、昔ながらの瓦屋根を携えた寺院造りのたたずまい。漆喰壁や屋根の妻飾りには、当時の職人たちが腕をふるったコテ絵の鶴や魔除の蛇、獅子などの意匠が残る。
富士山の銭湯絵が描かれた浴場は上に高く吹き抜け、昭和の伝統的な銭湯建築の特徴を残す。お湯は地下100メートルから汲み上げた天然の井戸水をガスでわかし、まろやかな湯あたりだ。
「脱衣所の高天井も、木は創業当時のまま。天井から下がるランプも配線こそ新しいですが、昔と同じものです。そして建物が古いからこそ、脱衣所や浴場など掃除に気を抜かずお客さんを迎えています。最近は桶や椅子をぜんぶ木目のデザインにそろえてみたんですよ」(岡嶋さん)
歴史を感じる外観と違い、中は小綺麗で、お香までたきしめられ、高級な和風旅館のような雰囲気がある。