飲食店では、店内を清潔に保つことが重要だ。もし清掃が行き届かず、客に損害を与えることになった場合、賠償義務はあるのか。弁護士の竹下正己氏が実際の相談に回答する形で解説する。
【相談】
居酒屋に出向いたときのこと。鞄を床に置くと、麻婆豆腐の皿の上でした。たぶん、前の客が皿を落としたのを店員に告げず、帰ったのでしょう。店員を呼び、事情を説明し、鞄の弁償を求めたら、「店の責任ではない!」といわれました。でも、こういう場合、店側に瑕疵があり、弁償してもらえますよね。
【回答】
状況により、違います。店員に、空いたテーブルに案内された場合を仮定します。拭かれたテーブルの下に、皿と麻婆豆腐が落ちていれば、他のテーブルから飛んでくるわけはないので、そのテーブルの前客が落としたと推測されます。
店は来店した客に、飲食サービスを提供し、客は代金を支払うという法律関係が生じています。このように、法律関係に基づいて特別な社会的接触に入ると、法律関係の付随的義務として相手の生命・身体・財産への侵害の可能性があるときには、その侵害をさせないという“安全配慮義務”が発生します。
床に食べ残しが落ちていれば、踏んだり、滑ったり、物を置いたりして客にケガや靴などへの汚損の被害を与えることは予見できます。店には、そのような事態が起きないよう注意する付随的義務があるのです。
わざと隠したのでなければ、店員はテーブル清掃時に、落ちた皿などに気づくのは容易でしょう。店員の見落としは、安全配慮義務の不履行になり、店には鞄の汚れの清掃費用の賠償義務があります。