ただ、あまり前例がないことなので、税理士も手間取っているよう……。相続税の締め切りまであと数か月しかないので焦っています。最悪、相続放棄をしようかと思っていますが、それでは住む家もなくなり、娘に迷惑がかかってしまいます……。
とりあえず私はできることからやっておこうと、夫が残した“小さなお金”をかき集めることにしました。キャッシュレス決済「PayPay」の残高が9万円ほどあったので、残高を請求。遺族である私の銀行口座に振り込んでくれるそうです。
いまは財産といっても、暗号資産やらキャッシュレス決済やら“目に見えないお金”が増えて、手続きが大変です。これらを申請するのも大抵は、サイト経由やメールなどパソコンで行うので、それもストレスです。直接電話で話せれば早いのに、と思うのですが、いちいちメールで質問して返答を待って……と、時間が倍かかる気がします。
2000万円は手に入らないともうあきらめています。それどころか、その分の相続税を払い、さらに、FXの損失も被る……。夫は現金貯金がほとんどなかったので、遺産を老後資金にするどころか、この年で借金を背負うことになりそうです。
まさか人生の後半に、こんな苦労があるなんて。財産は現金で残すことこそ、家族孝行になることを実感しました。(69才・パート)
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暗号資産を持つ人は家族と情報共有を
デジタル遺品の専門家・古田雄介さんが解説する。
「パソコンやスマホの中に残された情報や資産を“デジタル遺品”といい、パスワードがわからないなどの相談を以前から多く受けています」
上記のケースのような、暗号資産の相談も少しずつ増えてきており、今後、大きな問題になると確信しているという。
「故人が国内の交換業者を介して暗号資産を扱っているなら、株や投資信託などの金融商品とほぼ同等の扱いになります。亡くなった後は交換業者に依頼して所定の書類を揃え、手続きをすると日本円に換金して払い戻しをしてくれます。しかしこのケースのように独自の取引の場合はサポートしてくれる業者がありません。換金できないのに、相続税だけかかる可能性があります」(古田さん)
暗号資産で投資をしている人は家族間で暗号キーや交換業者の情報共有を。遺族が現金化できないという悲劇が起こる可能性もあるからだ。
【プロフィール】
古田雄介さん/2007年にデジタル遺品に関する調査を始め、一般誌やウエブマガジンで情報を発信。近著に『ネットで故人の声を聴け 死にゆく人々の本音』(光文社新書)など。
取材・文/前川亜紀
※女性セブン2022年11月3日号