化石燃料の代替エネルギーとして注目が高まっているバイオマスエネルギーは、植物の実や葉、動物の糞など、生物が作るものから生まれるエネルギーだ。
一般社団法人藻類産業創成コンソーシアム理事長の渡邉信氏は、筑波大学教授在任中から実施してきた、藻類(光合成を行なう生物から陸上植物を除いたものの総称)から原油を生み出す研究を進めている。
「トウモロコシなどの穀物から原油を作る方法もありますが、食料生産と競合するという問題点があります。その点、藻類バイオマスは食料問題と競合せず、なおかつ原油の生産性は穀物原油よりも高いです。穀物と比べると、藻には300~800倍の原油生産能力があります」(渡邉氏)
二酸化炭素を吸収して光合成を行ない、原油を作るバイオマス燃料は、地球温暖化をやわらげる技術として注目されている。その中でも、藻類バイオマスは温暖化防止効果が高く、期待値が高い。
渡邉氏は2004年頃から藻類バイオマスの研究を本格的に始めているが、藻類から原油に変換する際のコストが高いという課題があった。そこで下水を活用した藻類培養(人工的な施設で育てること)を行ない、バイオ原油生産と水の浄化を同時達成する取り組みを始めた。
1億3600万トンの原油生産も可能に
「藻類燃料の生産と水の浄化を一体化させると、生産コストが化石原油よりも安価になることが、アメリカの研究でも示されています。日本には2000か所以上の下水処理場がありますが、仮に3分の1の処理場で藻類を培養し、原油生産を始めれば、日本の年間輸入量に相当する1億3600万トンの原油が生産可能だと考えています」(渡邉氏)
ただし、日本の下水処理方式ではアメリカ式の適用が難しいため、渡邉氏は日本でも原油生成に適した藻類が培養できる仕組みづくりに取り組んでいる。
「藻類にはいくつか種類がありますが、安定した原油生産に適しているのは土着の藻類(混合栄養性藻類)です。光合成だけでなく、水中にある有機栄養素を取り込みながら育つ性質があるので、下水に含まれる有機物なども取り込み、水の浄化にも役立ちます」(渡邉氏)
二酸化炭素を増やさないバイオマスエネルギーが普及すれば、地球温暖化はもちろん、エネルギーの国産化も可能になる。実用化に向けての道のりは長いが、達成すべき目標は、徐々に見えつつある。
撮影/古川章
※週刊ポスト2022年11月18・25日号