マスク氏は買収完了後、すぐさま本人を除くすべての取締役を一旦解任し、経営に関する全権を確保した上で、全従業員の半分に当たる約3700人を11月4日までに解雇したと報じられている。
解雇された従業員の一部は不当解雇として同社を提訴しているようだが、訴訟も辞さず非情に徹し行動できるところが、マスク氏の経営者としての資質の高さを示しているとも言えるだろう。
ただ、リストラだけでは時間稼ぎはできても、事業はじり貧となってしまう。今後の発展のためにはしっかりとした成長戦略が必要だ。法人に依存したビジネスでは、“幅広いレンジの信条が健全な方法でされるディベートされ得る場所”の確保は難しい。
幸い、ユーザー数は足元でも二桁増を続けている。彼らからの課金を収益の一方の柱とし、“幅広いレンジの信条”を持つ個人を隔たりなく集めた上で、経営者が考える平等、公平、公正の原則の下で、デジタル空間の整理をすればよい。あくまで民営企業である。モデレーションのやり方が正しいかどうかは、マスコミや既得権益者が評価することではなく、ユーザーたちが評価すべきことだ。
微信をモデルにしたスーパーアプリ「X」の開発に意欲
マスク氏は、中国IT企業・テンセントの微信(We Chat)をモデルとしたスーパーアプリ「X」の開発を進めたいようだ。
テンセントの収益構造はバランスが取れている。4-6月期の売上構成をみると、ネット広告は14%に過ぎない。ゲームを中心に映像、音楽などへの課金収入が53%、フィンテック、企業向けビジネスが32%、その他が1%となっている。この収益構造なら、買い手に振り回されることなく、やりたい経営を貫ける。
6月末時点の微信のアクティブユーザーは海外を含めて12億9910万人。中国本土では、小学校の通信網、マンションの管理組合の連絡網、家電広告の閲覧から、買い物の電子決済、新型コロナ禍において必携となる健康アプリの提示に至るまで、あらゆる生活シーンで微信はなくてはならない存在となっている。ここまで社会に浸透してしまえば、それこそマスク氏が求める理想的な情報空間を作り出すこともできるのではないか。