二信組事件の公判中だった2005年7月、治則はくも膜下出血に見舞われた。倒れたのはホテルのサウナと報じられたが、愛人宅のサウナだ。環太平洋のリゾート王は59歳の若さで命を落とした。
「高橋家の通夜・告別式」の知らせが私のもとにも届き、東京・港区西麻布にある曹洞宗長谷寺に向かうと、黒ずくめの弔問者がざっと2000人はいた。兄の治之のいる親族席に座っていたのが、かつて貸金業のアイチを率い、「地下金融の帝王」と異名をとった森下安道である。
通夜には森下をはじめ、元労相の山口敏夫や旧大蔵官僚の田谷廣明の姿もあった。
高橋兄弟の人脈は他のバブル紳士とはやや異なる。安倍晋太郎や小沢一郎、中西啓介や森喜朗、大蔵省主計局次長の中島義雄や田谷など数多くの政官界の要人と交友し、プライベートジェットでいっしょに海外旅行をしてきた。だが、通夜・告別式に訪れた政治家は安倍晋三くらいで、あとは見かけなかった。
(後編につづく)
【プロフィール】
森功(もり・いさお)/ノンフィクション作家。1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。新潮社勤務などを経て2003年よりフリーに。2018年、『悪だくみ──「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。近著に『菅義偉の正体』『墜落「官邸一強支配」はなぜ崩れたのか』など。最新刊は『バブルの王様 森下安道 日本を操った地下金融』。
※週刊ポスト2022年12月9日号