1990年代後半、大きな負債を抱えたバブル紳士たちは、森下と組んでひと儲けしようとし、森下はビジネスのタネを提供した。高橋治則もそんな森下人脈の一人だったといえる。ある証券会社の幹部はこう話した。
「ちょっと前まで生活費にさえ困っていた高橋が、2000年代に入ると、金回りがよくなっていました。投資顧問会社『スターホールディングス』や『ユニオンホールディングス』の顧問という肩書の名刺を持ち歩き、投資家を募って株取引を展開していったのです」
いわゆる投資ファンドの経営に乗り出した高橋の金主が、森下だったのである。そしてコインの表である兄の高橋治之もまた、名実ともにスポーツイベント界の大立者となる。まさしく自ら仕掛けてきた東京五輪で足元を掬われた。兄弟を逮捕した東京地検特捜部の捜査はもうしばらく続きそうだ。
(了。前編から読む)
【プロフィール】
森功(もり・いさお)/ノンフィクション作家。1961年福岡県生まれ。岡山大学文学部卒。新潮社勤務などを経て2003年よりフリーに。2018年、『悪だくみ──「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一ノンフィクション賞受賞。近著に『菅義偉の正体』『墜落「官邸一強支配」はなぜ崩れたのか』など。最新刊は『バブルの王様 森下安道 日本を操った地下金融』。
※週刊ポスト2022年12月9日号