隣家から飛んできたもので、自宅が傷つけられてしまった──。もしもその背景に自然災害があった場合、隣家に弁償してもらうことはできるのだろうか。弁護士の竹下正己氏が実際の相談に回答する形で解説する。
【相談】
台風のときに隣家の瓦屋根が飛んできて、うちの外壁にヒビが入り、ガラス窓が割れました。隣家に「弁償してほしい」と頼んだところ、「屋根の瓦が飛んだのは自然災害のせいだから仕方がない。うちも被害が多くお金がかかるので、あなたの家の弁償までできない」と言われました。隣人の気持ちはわかりますが、修理代をもらえないとうちも困ります。隣人に損害賠償を求めることはできないのでしょうか。(福岡県・54才・主婦)
【回答】
台風だから責任がないとは一概に言えません。瓦や屋根のような建物の一部が原因で他人に損害を与えた場合、土地の工作物の管理に瑕疵がなかったかどうかが問題になります。
土地の工作物とは土地に定着しているもので、建物がその典型です。不法行為として認められる条件としては、他人の財産や身体などの権利、法的に保護された利益の侵害について、加害者に故意や過失があったことが必要です。しかし、土地の工作物には民法717条が適用され、瑕疵があれば、故意や過失がなくても瑕疵により生じた損害の賠償責任を負います。
「瑕疵」とは、通常そのものが備えておくべき安全性を欠いていることをいいます。通常備えておくべき安全性の程度は、工作物の性状や用法、その置かれた環境下などで判断されます。人里離れた一軒家と街中の建物では求められる安全性は違いますし、状況によっても違ってきます。台風でも風の強さはさまざまです。瓦が飛んだときの風の強さ等の状況を踏まえて、通常備えておくべき安全性に欠けていなかったかが問題になります。
前例がない強力な台風で備えようがない場合には、通常の安全性では対応できませんから瑕疵は認められません。しかしその地方において、普通に経験する程度の台風や強風に対しては、瓦が飛散しないように屋根を葺くことが求められます。