2022年度の厚生労働省の人口動態統計特殊報告によれば、離婚件数自体は2002年をピークに年々減少しているが、それでも離婚する夫婦が10万組にも満たなかった1960年代の倍以上の水準を維持している。ベリーベスト法律事務所の弁護士・日原聡一郎さんが言う。
「離婚の件数自体は減少傾向ですが、これは人口と婚姻数の減少によるもの。司法統計によると、家庭裁判所に持ち込まれる離婚の件数は年々増加しています。これは『調停』という手続きが広く知られるようになったため。金銭面など条件でお互いに合意できなかったときに泣き寝入りせず、しっかりと話し合いをしたいと考える人が多くなったのでしょう」
民法上認められる離婚の条件は、【1】肉体関係を伴う浮気、すなわち「不貞行為」、【2】勝手に出ていって生活費を渡さないといった「悪意の遺棄」。【3】「3年以上の生死不明」。【4】「配偶者が強度の精神病にかかり回復の見込みがないとき」、【5】DVやモラハラなどの「婚姻を継続し難い重大な事由」だ。
裁判所ですんなり離婚が認められるのは、不貞やDVなどがハッキリと立証できた場合で、そうでなければ調停は長引く。とにかく、つらい思いをしているなら、まず別居すべきだ。
「モラハラをしてくる配偶者に離婚を拒否された場合は、別居するしかありません。別居が3~5年に及ぶと、それ自体が『婚姻関係を継続できていない』と見なされ、離婚理由になります」(日原さん)
専業主婦などで収入がない場合は夫に対し、別居期間中の生活費を「婚姻費用」として請求することができる。婚姻費用を受け取って別居年数を重ねれば離婚が成立するのだ。婚姻費用は実家に戻っても受け取ることができる。
慰謝料は、認められたとしても数百万円程度だが、婚姻費用は桁が違う。『損する結婚 儲かる離婚』(新潮新書)などの著書がある作家の藤沢数希さんは、こう話す。
「例えば、年収1200万円のエリートサラリーマンと専業主婦の夫婦の場合、税金や生活費を差し引いた残りは月40万円ほど。それは“夫婦ふたりのもの”と見なされ、夫は半分の月20万円を婚姻費用として支払わなければなりません」
この場合、別居期間が5年なら1200万円、10年なら2400万円もの婚姻費用を受け取ることができる。これほど高収入の夫ではなくとも、ほとんどの場合は安心して別居できる。だが、婚姻費用を受け取るには条件がある。
「婚姻費用はあくまでも、収入のない配偶者が別居中も安定した暮らしを送るためのもの。婚姻費用を受け取ると、再婚どころか、新しい恋人もつくることができません。また、収入があると婚姻費用は減額される。また当然ながら、収入の少ない夫からは、安心できる金額を取ることはできません」(藤沢さん)