この塾長がいう「地頭」の良さとは、読解力を指すのだろう。しかし、日本の子どもの娯楽はゲームやYouTubeが中心で、読解力が育っていない。OECD生徒の学習到達度調査(2018年)では読解力全体が高いレベル5以上の生徒の割合がシンガポール26%、中国(北京上海など)22%、カナダと香港が15%、アメリカ14%と続き、日本はその下の10%となる。海外に比べても日本の子どもは読解力が伸びにくい状態にある。そうなると、テキストを自力で読んでこられる子どもが減ってくる。
「予習シリーズは名前のとおり、予習をしてくるために作られたテキストです。このテキストを使う授業は、予習をしてきてもらうと効率が上がります。しかし、テキストを自力で読めない子が増え、予習シリーズを使っているのに予習をさせられない塾が増えています。結果、授業の効率が上がらなくなり合格実績が伸び悩みます」(先出・塾長)
実際、予習シリーズを使用しながらもそれを活用できていない塾の幹部に「なぜ予習をさせないんですか」と訊いたところ、「うちは優秀な子が入ってくる塾ではない」と答えた。ここでいう優秀とは地頭がいいと同じ意味で「テキストを読んでこられる子」という意味だろう。
それに対して、サピックスは「テキストを自力で読めない」今どきの生徒に最適化したテキストとメソッドを開発した。
いきなり問題を解かせるメソッド
サピックスのテキストは基本、説明がなく、いきなり問題を解かせる形式になっている。テキストというよりはドリルに近い。
そして、サピックスは予習をさせない「復習主義」と謳っている。テキストを授業の時に配布するから家であらかじめ見ることができない。そのため、クラス全員が初めて見る問題に取り組む。
その初見の問題を「どう解く?」と講師が問いかけ、生徒が「僕はこう解きます!」「私はこう解きます!」と意見を交換させていく。そのため、サピックスの授業は賑やかになる。
この方法が合う子には合う。自分が議論に参加した内容は記憶にしっかり残るからだ。「いきなり解かせる」「仲間と議論させる」というやり方は、今どきの生徒たちにマッチしたのかもしれない。