結果、サピックスが変えたのは難関校に受かる生徒たちの質である。その質の変化とはなにか。『中学受験』(横田増生著・岩波書店)の中で、元サピックス講師の家庭教師がサピックスの強みをこうコメントをしている。
「(前略)徹底的な繰り返し教育により、“地頭”の良し悪しに関わらず、難関校に受かるような精緻なシステムができているところです」
また「地頭」という単語が出てきたが、ここでは「物覚えの良さ」のことを指している。サピックスの入塾テスト自体のハードルは全く高くない。入塾段階でセレクションが実施されているわけではない。にもかかわらず、なぜ合格実績が出せるのか。
その理由は、サピックスは「地頭」というものを信じてないからだ。いきなり問題を解かせるのは「小学生は説明が読めない」からで、繰り返し復習を行うのは「小学生は習ったことをすぐ忘れる」と判断している。
「従来の塾はいかに『地頭のいい子』を集めるかの勝負でした。従来なら切り捨てられていた層をも受験戦士に育て上げるメソッドをサピックスは開発したんです」(元サピックス講師。現在、中高一貫校教諭)
切り捨てられてきた層というのは、テキストを自力で読んで予習できない、つまり、読解力がない層、そして、物覚えが特別いいわけではない層だ。
いかに子どもの宿題に寄り添えるか
では、サピックスに向いている家庭とそうでない家庭はあるのか。サピックスでは予習は不要だが、復習……つまり、家での宿題に大きく時間を割く必要がある。サピックスでは授業は“とっかかり”でしかなく、授業時間も短く、家庭での学習(宿題)がメインというメソッドだ。勉強量は塾で3、家で7といった割合だとされる。
サピックスでは、「どう家庭で勉強をさせるか」をきめ細かくかつ端的に書いた「年間学習法」という冊子を配り、保護者会などでも勉強のさせ方を伝授する。サピックスの指示通りに、家庭で子どもを指導していけば、中学受験に必要な学力はついていくというメソッドだ。
これだと、「うちは夫婦揃って仕事が忙しいので勉強のフォローは全くできない」という家庭はサピックスでやっていけなくなる。