一方で、「うちの子を筑駒に入れるためなら犠牲は惜しまない」という熱心な層こそがサピックスを活かせるし、実際、そういう層の子どもが入塾してくるからあれだけの実績が出せるのだ。もちろん、親にそう思わせる子どもはそれなりに勉強に向いている。ただ、かつてなら筑駒や御三家に入れるほどでなかった子どもすら、サピックスに通えばそれらの学校に入る可能性が広がるようにも見える。
たとえば、サピックスは国語のテキストが秀逸で、良質な文章が豊富に載っている。それを読みつづけているうちに受験に必要な読解力を得ることができる。読めない場合は親がフォローをすればいい。ある保護者はサピックスに入った子どもにテキストの読み聞かせをしたという。小4生が親に読み聞かせをしてもらうのはずいぶんと「幼い」風景だが、そういう子どもでも「御三家」に合格させるのがサピックスのメソッドなのではないか。
そこには「親が本を読む習慣がある」「親も中学受験をしている」といった親の文化資本は関係ない。親がいかに頑張って子どもの宿題に寄り添うのかで差がつく。それはそれで平等な世界の到来なのかもしれない。
【プロフィール】
杉浦由美子(すぎうら・ゆみこ)/ノンフィクションライター。2005年から取材と執筆活動を開始。『女子校力』(PHP新書)がロングセラーに。2022年秋に発行の『中学受験 やってはいけない塾選び』(青春出版社)は受験生の保護者以外も興味が持てる内容と評判の13冊目の単著。