どんな街に住むかは人生を左右するが、生活拠点における周辺施設の充実度は寿命にも関わる。これまでの研究では、健康と住む場所についてどんな分析がされているのか。
65歳以上の高齢者約5万人を3年間追跡調査した東京医科歯科大学の研究(2019年)では、近隣に食料品店が少ないと死亡リスクが1.6倍になった。外出時に車を利用せず、近隣に食料品店が「たくさんある」高齢者と、「あまりない」「まったくない」高齢者を比較した結果だという。谷本哲也医師(ナビタスクリニック川崎)が解説する。
「近隣に新鮮な野菜や果物が手に入る店がないと、塩分などが多い保存食中心の食生活になりがちです。車の利用がなく食料品店が近くになければ自然と活動範囲が狭くなり、運動不足の懸念もある。そうした複合的な要因が影響するのでしょう」
健康には地域の所得格差が影響することもある。
65歳以上の高齢者約8万人を対象にした埼玉県立大の調査(2015年)では、地域の平均所得が100万円増えると歯のない人が減ることが判明した。個人所得が同じでも、地域の平均所得が高い地域に暮らす人ほど無歯顎のリスクが低いという。
地域差は、認知症発症にも影響が及ぶ。近藤克則氏(『長生きできる町』著者)の研究で、都心部など歩く人が多い街は認知症リスクを持つ人が少ないとわかった。近藤氏の調査によると、75歳以上で1日30分以上歩く人は都市部ほど多く、その割合が高い街ほど認知症リスクが低いという。
「歩かないことが健康上よくないことは明らかです。田舎などで車移動が多いと、認知症だけでなく様々な病のリスクも高めることになる」(谷本氏)