投資家が韓国から資金を引き揚げた理由
なぜ、このような金融危機が起こったのか? このことについて順を追って話すとなると、1985年にアメリカの赤字を削減するためのドル安誘導が決定されたプラザ合意あたりから始めなければならない。1987年には、ルーブル合意でドル安の進行を止め、1990年代後半のクリントン政権時代からドル高へと政策を転換。このドル高が原因で、それまで固定相場制の一つであるドルペッグ制により安いドルと紐付いていたアジアの通貨が相対的に高くなって、アジアの新興国の輸出が振るわなくなる。と同時に利ざやを狙った投資ファンドが目を付けて……というような解説がなされていることが多い。しかし、ここでは〔借金とグローバリゼーション〕という視点で理解してみたい。
まず、1990年代からグローバリゼーションが勢いを増した。グローバリゼーションは資本を自由化する。つまりお金を、自由に国境を越えて、狙った国に投下できるようになるというのがグローバリゼーションの本質だ。すると、国境を越えた〔貸す/借りる〕の借金の関係は肥大する。貸す側は貸さないと商売にならない。借りる側にとっては、たくさん貸してもらえるのは、より大きなビジネスが展開できるので、ありがたい。けれど一方で、貸す側としては返済の信用がないと貸しにくいものだ。この頃の東アジア諸国は韓国のみならず順調に発展を遂げており、信用があった。しかし、映画の冒頭で描写されたように、1997年、貸し手は急にもう貸さないと言いだし、ウィン=ウィンの関係は壊れた。
この頃の韓国は、海外から短期で借り、国内には長期で貸しつけるというお金の流れができあがっていた。こうすると、国内へ貸した金が返ってくる前に海外への返済期限が来ることになる。もちろん返せない。ではどうするかと言うと、返さなければならない額をもういちど借り直すことで実質的に返済期限を延ばしていたわけである。このロールオーバーという形で韓国は資金を回していたのだけれど、1997年11月、海外投資家らはロールオーバーを突然拒否しだした。なぜだろうか?
投資家が、危険な兆候を韓国に見つけて、資金を引き揚げたのか、それとも、さしたる理由もなく、泡を食って引き揚げてしまったのか。前者は借りた側に原因があるという説。後者は貸した側が判断を誤って馬鹿なことをやっちまったという説だ。前者はファンダメンタルズ論、後者はパニック論と呼ばれる。問題は後者である。さしたる理由もないのに泡を食って資金を急に引き上げたのならば、貸した側の責任は大きい。それで国全体の経済が傾き、失業者が街に溢れたのだから、責任を追及したっていいくらいだ。
映画『国家が破産する日』はこのあたりの表現が曖昧である。ヒロインのハン・シヒョン(キム・ヘス)は韓国銀行の通貨政策チーム長であるが、大統領にこの状況をわかりやすく説明するにはどうする、と官僚らで話し合っているときに、「『借金の返済を遅らせて、浪費していたら大事になりました』と(でも説明しますか)」と皮肉っぽく発言する。これはなんとなくファンダメンタルズ論に近い。ちなみにファンダメンタルズとは、企業収益やマクロ経済の将来見通しといった実体経済に関する要因だけれど、ざっくり経済の実態だと理解しておけばいいと思う。