一度通販でモノを買った場合、その後DMやメール、営業電話がかかって来たという経験のある人もいるだろう。ネットニュース編集者の中川淳一郎氏は、数年前に新聞広告を見て「鰻10食セット8800円」を買ったら、その後、営業電話がかかって来るようなったが、「営業マンと何度か話しているうちに、友情みたいな不思議な感情を抱くようになった」と振り返る。だが、その関係は、ある日突然終わりを告げた。中川氏がそこで知った“通販業界の掟”について綴る。
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ある日、知らないフリーダイヤルから電話が来ました。電話の向こうにいるのは関西弁で喋るオッサンです。「私ね、通販会社○○のAと言います。中川さんね、この前鰻を買うてくれてありがとね!」といきなり馴れ馴れしく言ってくるではありませんか。
そして「おいしかった?」と言うので「おいしかったですよ」と伝えたら、「あのね、また鰻が安くなったんで買いませんか!」とくる。丁度なくなっていた時期ですし、この鰻自体はおいしかったので再度注文しました。真空パックの冷凍モノです。
すると今度は2か月後に電話があり「中川さん、鰻どうやった? おいしかった?」と言うので「おいしかったですよ」と言ったら「あのね、また鰻が安いんよ。どう?」と言います。さすがに2人家族で2か月の間に鰻を5回も食べることはないため、苦笑しながら、「Aさん、ウチは2人しかいないのでまだ残ってます」と言ったのですが、引き下がらない。
「だったらね、牛肉の高級部位の『シャトーブリアン』ってのがあるんよ!」と別の提案をしてくる。たしかにシャトーブリアンは稀少だし、A氏が提示した量と金額はお得だと感じたので、これも買いました。
こうした形で、この人懐っこいA氏からは時々電話が来て、3回に1回ぐらいの割合で何らかの商品を注文しました。なかなか質が良いから、悪い買い物ではない。というより良い買い物をしたと思っています。
そして、それとは別に、私が注文をすることにより還暦間近であろうA氏の社内での評価が高まればいいな、なんてことも思っていました。こうした電話営業にはノルマもあるでしょう。私としては、人懐っこくて話術が巧みなA氏に好感を持つようになっていて、彼が社内で(あるいはコールセンターで)肩身の狭い思いをしなければいいな、と考えるようになったのです。